今までに勉強した内容を使って,球面上に描かれた三角形の角度を考えましょう.私たちは普段,平面上での幾何学に馴れっこになっていますが,球面上では少し様子の異なる幾何学が展開されます.よく知られた例ですが,球面上に描いた三角形では,内角の和が 度よりも大きくなります.
絵に描いてみましたが,地球儀の上に北極から経度 度の子午線に沿って赤道まで線を引き,そこから東経 まで赤道上に線を引き,そこから北極まで再び経線に沿って線を引けば,この三角形の角はそれぞれ 度になりますから,内角の和は 度ですね.
このように,曲率のある面上で幾何学をする際には,いつもと違った注意が必要です.
[*] | 曲面上の幾何学には,ほかに楕円体上や双曲面上で図形を考えるものなどがあります.これらは一般に非ユークリッド幾何学と呼ばれます.曲率が正の曲面上では三角形の内角の和は 度以上,曲率が負の曲面上では三角形の内角の和は 度以下になります. |
半径 の球面上に,三角形 を考えます.三角形の角や辺は次図のように決めることにします.
例えば,図中の角 を考えみましょう.角 は,面 と面 のなす角だと考えられますから,それぞれの面の法線ベクトルの内積を使って表わすことができそうです.
面 の単位法線ベクトルは ,面 の単位法線ベクトルは で表わされますから,これらの内積を取って次式がなりたちます.
角 を表わすことができました.ところで,いま球の半径を としていますので, がなりたっています.(このように,球面上の距離を中心角として表わせるのが,半径 の球面の便利な点です.)そこで,角度について次の関係がなりたちます.
これらを使うと,式 は次のように整理できます.
角 や についても同様です.
これは球面三角形になりたつ重要な関係式で, 球面三角法の余弦定理 と呼ばれています.式変形して次の形で紹介されることも多いです.
角 について,面 と面 の単位法線ベクトルの外積を取って, を次のように表わすこともできます.
分母については を使いました.分子については,さらに次のように式変形が可能です.(馴れていないと面食らうかも知れませんが,一行目の式変形は公式通りの変形です.成分を代入すればすぐに確認できます. ベクトルの公式1 を参照して下さい.)
右辺の第二項が零になることに注意してください.この結果は のスカラー三重積ですので,巡回的な関係 がなりたちます.そこで,次の関係を導けます.( 三重積 を参考にしてください.)
この関係を 球面三角法の正弦定理 と呼びます.とても重要な定理です.
以上,ベクトル演算の応用問題として,球面三角法で使う基本的な定理を導いてみました.