この記事は現在、プロジェクトメンバーによる査読中のものです。草稿段階ですので、内容・表現の正確さについて責任を負いかねます。 リンクを正しく張れていないところが存在しますのでご注意ください。 正式公開まで、いましばらくお待ちください。
オイラーの公式の幾何学的見方

複素関数論の基礎となる,もっとも重要な数式の一つに オイラーの公式 があります.

e^{i\theta } = \cos \theta + i \sin \theta     \tag{1}

特に,式 (1)\theta = \pi とおいた形 e^{i\pi }= -1 は,数学に出て来るもっとも重要な数である, 1,\pi , i , e が芸術的とも言える美しさで関係付けられた関係式として有名です.映画にもなった小川洋子氏の小説『 博士の最も愛した数式 』にも登場するので,数学があまり得意ではない人でも,どこかで目にしているかもしれません.

[*]もっとも,この式だけで何が出来るかと言うと,ちょっとよく分かりません.それでも,数学史上最も美しい数式であることは疑いのない事実ですし,小川洋子氏は数学者ではないにも関わらず,数学の美しさ・喜びを,上手に表現していると思います.吉田武氏の『 オイラーの贈り物 』は,オイラーの公式に至るまでの流れを詳しく書いた名著です.内容は数学の教科書風ですが,著者の熱気が伝わってくる筆致で(ちょっと熱すぎるくらい),高校生か背伸びした中学生くらいにお奨めします.

オイラーの公式のいい加減な証明としては, e^{i\theta}\sin \theta\cos \theta をそれぞれテイラー展開して各項を比べることで,確かに式 (1) がなりたつことを納得することが出来ます.( e^{x}\sin x\cos x のテイラー展開を書いておきますので, x=i\theta を代入してみて下さい.)

e^{x} = 1 + x + \frac{x^{2}}{2!}  + \frac{x^{3}}{3!} + \cdots  \tag{2-1}
\sin x = 1 - \frac{x^{3}}{3!} +  \frac{x^{5}}{5!} - \cdots     \tag{2-2}
\cos x = x  - \frac{x^{2}}{2!} +  \frac{x^{4}}{4!} - \cdots    \tag{2-3}

大まかな理解としてはこれで良いのですが,式 (2) の右辺は無限の項が連なる級数となっており,厳密な証明には収束性を考えないといけません.この記事の目的は,オイラーの公式に厳密な証明を与えることではなく,複素平面を使って図形的・直観的な見方を考えてみることです.

[†]無限級数の収束性をきちんと議論することは,厳密な理解には重要なことです.テイラー( \text{Brook Taylor (1685-1731)} )やグレゴリー( \text{James Gregory (1638-1675)} )等の研究により,色々な関数が多項式の無限級数で表現できることが分かったことは,解析学における大きな事件で, 18 世紀までは,色々な関数を無限級数展開して面白がっていました.しかし,当時は極限や級数和に関する取り扱いがいい加減で,無限和と有限和を同じように取り扱ったため,不思議なことや矛盾が噴出しました.例えば, 1-1+1-1+1-1+... は, 1+(-1+1)+(-1+1)+... と考えれば 1 になりそうですし, (1-1)+(1-1)+... と考えれば 0 になりそうなものです.また, 1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+...=2 となるのに,よく似た 1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+... が発散してしまうというのも,直観的には納得できません.このような色々な不思議が解決され,無限和をきちんと安全に取り扱えるようになったのは,コーシー (\text{Augustin Louis Cauchy (1789-1857)}) やリーマン (\text{Georg Friedrich Bernhard Riemann (1826-1866)}) など, 19 世紀の数学者達の功績です.上述の説明は,収束性の考察をせずに,勝手に無限和の各項を足しているので 18 世紀的ないい加減さです^^

オイラーの公式の図形的解釈

指数関数 e^{x} は,微分に関して次式を見たします.

\frac{d}{dx}e^{x} = e^{x}      \tag{3}

これは指数関数の定義そのものですから,証明するものではありません.式 (3)x=i\theta と代入すると,次式になります.

\frac{d}{dx}e^{i\theta } = i e^{i\theta }      \tag{4}

(4) の右辺では i が前に掛かっていますが, i を掛けることは,複素平面上では,ベクトルを反時計周りに 90^{o} 回転させる操作に等しいのでした.( 複素数と図形1 参照.)このことを図形的に考えてみましょう. |e^{i\theta}|=1 より, e^{i\theta} が複素平面上で表わす点は,原点を中心とする半径 1 の円上にあると言えます.これに i e^{i\theta } を書き加えてみましょう.

Joh-EulerFormulaGeo3.gif

変数 \theta が変化する際の,変化の方向を i e^{i\theta } は表わしていますが, e^{i\theta } に直交する向きであることから, e^{i\theta } の長さそのものは変わらず,結局, \theta が様々に変化するとき, e^{i\theta } は単位円上をグルグル回る点を表わすことになります.ここでは図形的イメージとして, e^{i\theta } が単位円上の点であること,その \theta に関する変化の方向が接線方向であることを把握して下さい.(この後は,速度 | i e^{i\theta }| = 1 であることや, \theta = 0 , \ \theta = \frac{\pi}{2} の値などを考えれば, e^{i\theta } = \cos \theta + i\sin \theta と表現すると上手く行くことが分かると思います.)

級数としての直観的イメージ

(2-1)x=i\theta として, e^{i\theta} の級数展開を眺めてみましょう.

e^{i\theta} = 1 + i\theta + \frac{(i\theta )^{2}}{2!}  + \frac{(i\theta )^{3}}{3!} + \cdots    \tag{5}

(5) をベクトルの足し算と見てみると,動的なイメージが湧いてきます.まず,第一項 1 を出発点とします. i\theta の向きは 1 から反時計周りに 90^{o} で,大きさは \theta 倍です.さらに,第三項 \frac{(i\theta )^{2}}{2!} はさらに反時計周りに 90^{o} 向きを変え,大きさは {\theta ^{2} \over 2} 倍のベクトルです.

Joh-EulerFormulaGeo2.gif

このように,複素平面上 1 から出発してグルグルとベクトルを足していくと(ベクトルの長さがどんどん短くなっていく点にも注意して下さい),一点に収束していくように見えます.式 (5) が表わしている状況は,直観的にはこのような幾何ベクトルの足し算だと思ってよいでしょう.

さらに,式 (5) の右辺で,実部と虚部を分けてみましょう.(これにも,上図のイメージを使うと簡単です.)

\Re [e^{i\theta} ] = 1 - \frac{\theta ^{2}}{2!}  + \frac{\theta ^{4}}{4!} - \cdots     \tag{6-1}
\Im [e^{i\theta} ] = \theta - \frac{\theta ^{3}}{3!}  + \frac{\theta ^{5}}{5!} - \cdots        \tag{6-2}

(6-1)(6-2) を見て, \cos \theta\sin \theta の級数展開だということが直ちに分かれば,それはそれで良いのですが, \cos \theta \sin \theta の級数展開を知らなくても,式 (6-1)(6-2) がそれぞれ \cos \theta, \sin \theta を表わすことを示すことは出来ます.まず,次のように置きます.

e^{i\theta } = C(\theta ) + i S(\theta )       \tag{7-1}
C(\theta ) = 1 - \frac{\theta ^{2}}{2!}  + \frac{\theta ^{4}}{4!} - \cdots     \tag{7-2}
S(\theta ) = \theta - \frac{\theta ^{3}}{3!}  + \frac{\theta ^{5}}{5!} - \cdots        \tag{7-3}

(7-1) を式 (4) に代入することで,次式を得ます.

C' (\theta ) = -S (\theta )    \tag{8-1}
S' (\theta ) = C (\theta )     \tag{8-2}

(8) に加え, |e^{i\theta }|^{2} = C(\theta )^{2}+ S(\theta )^{2} の微分を考えてみます.

\frac{d}{d\theta }(|e^{i\theta }|^{2}) = \frac{d}{d\theta }(C(\theta )^{2}+ S(\theta )^{2}) \\ &= 2(CC'+SS') \\& = 0   \tag{9}

(9) の最後の行には,式 (8-1)(8-2) で得た関係式を使いました.式 (9) が意味するのは, \theta によらず e^{i\theta } の絶対値が一定だということです. e^{i0}=1 を考えれば, |e^{i\theta }|=1 が分かります.

|e^{i\theta }|=1 \ \Leftrightarrow \ C(\theta )^{2} + S(\theta )^{2} = 1 \tag{10}

(8-1)(8-2)(10) を見れば,ひとまず複素平面上で e^{i\theta } の偏角を \Theta (\theta) と置き, C(\theta ) = \cos \Theta (\theta) , \ S(\theta )= \sin \Theta (\theta) と表わせることが分かります.(これが,そもそも三角関数の定義だからです.)次に示したいのは, \Theta (\theta ) = \theta であるということです.まずは \tan \Theta (\theta) = \frac{\sin \Theta (\theta )}{\cos \Theta (\theta )} = \frac{S(\theta )}{C (\theta )} と置き,両辺を微分してみましょう.まず,左辺の微分を公式通りにしてみます.

\frac{d}{d\theta }(\tan \Theta (\theta)) &= (1 + \tan ^{2} \Theta ) \frac{d\Theta }{d\theta} \\ &= \left( 1 + \frac{S^{2}}{C^{2}} \right) \Theta '  \\ &= \frac{\Theta '}{C^{2}}       \tag{11}

次に右辺 \frac{S(\theta )}{C (\theta )} を微分してみます.

\frac{d}{d\theta }(\frac{S(\theta )}{C (\theta )}) &= \frac{S'C-C'S}{C^{2}} \\&= \frac{1}{C^{2}}       \tag{12}

ここで,二行目から三行目の変形には,式 (8-1)(8-2) を使いました.式 (11)(12) を比べることで, {d \Theta \over d\theta } = 1 が分かりますので,これより \Theta = \theta +c が分かります.( c は定数.)ここで e^{i0}=1 を考えると, c2\pi の整数倍であること分かります.ここで,代表的に c=0 とすることが出来ますので, \Theta = \theta で,結局,次式が分かります.

e^{i\theta } = \cos \theta + i \sin \theta \tag{13}

また,式 (6-1)(6-2) と比べれば,三角関数の級数展開の表現も分かります.

\cos \theta &= \Re [e^{i\theta} ] \\& = 1 - \frac{\theta ^{2}}{2!}  + \frac{\theta ^{4}}{4!} - \cdots  \tag{14-1}
\sin \theta &= \Im [e^{i\theta} ] \\ &= \theta - \frac{\theta ^{3}}{3!}  + \frac{\theta ^{5}}{5!} - \cdots \tag{14-2}

指数関数 e^{x} の級数展開から,オイラーの公式の図形的意味をベクトル的に考えてみて,その後,実部と虚部がそれぞれ \cos , \sin であること, e^{x} の偏角と三角関数の引数が等しいことを演繹的に示してみました.