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流体力学における最小作用の原理(提案)

本記事では, 流体力学, より一般的には, 流体や弾性体を含む連続体力学の基礎方程式であるコーシーの運動量方程式(Cauchy Momentum Equation)について, 従来は力のつり合いから直接与えられてきたものを, 最小作用の原理の枠組みの中で導出する具体的な方法を提案したいと思います.

1.コーシーの運動量方程式

コーシーの運動量方程式というのは, 任意の連続体において運動量の輸送を記述する基本的な式です. この方程式は, 質点に関するニュートンの運動方程式における質点を,広がりのある流体要素に拡張したものであると見ることができます. 流体要素はある体積を持ち, 変形しながら流れていきます. そして, 流体要素の各点は周囲からの応力を受けますので, その項(接触力の項)がニュートンの運動方程式に加わることになります. まずは両方程式をじっと見比べてみてください.

1.1 ニュートンの運動方程式

m\frac{d\bm{u}}{dt} = \bm{F} \tag{1.1}

ここで, 質点の質量,速度をそれぞれ m , \bm{u} , 時間を t , 外力を \bm{F} としています.

1.2 コーシーの運動量方程式

\int_V \rho dV \left[ \frac{D\bm{u}}{Dt} \right] = \oint_{S=\partial V} dS \bm{n}\mathrm{P}+ \int_V \rho dV \tilde{\bm{F}} \tag{1.2}

ここで,流体要素の体積, 表面積, 密度, 速度場をそれぞれ V , S , \rho , \bm{u} , 表面から外に向かう法線ベクトル, そこではたらく応力をそれぞれ, \bm{n} , \mathrm{P} , 単位質量あたりにはたらく外力(体積力)を \tilde{\bm{F}} としています.

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2.ニュートンの運動方程式の導出

まず,ニュートンの運動方程式の導出のポイントだけ復習してみましょう.議論の展開上, 何が変数であり, 何がそうでないかが重要になってくるため, 以降, 変数を極力省略せずに書きます.

2.1 作用

作用 S は以下で定義されます.

S \left[ \bm{x} \right] = \int dt m \tilde{\mathcal{L}} \left( \bm{x}(t), \frac{d \bm{x}(t)}{dt} \right) = \int dt m \left[ \frac{1}{2} \left[ \frac{d \bm{x}(t)}{dt} \right]^{2} - \tilde{U}(\bm{x}(t)) \right] \tag{2.1}

ここで, \tilde{\mathcal{L}} はラグランジアン密度であり, 質点の位置ベクトル, 単位質量あたりのポテンシャルエネルギーをそれぞれ \bm{x}(t) , \tilde{U}(\bm{x}(t)) としています. 作用 S は, \bm{x} の汎関数です.

ラグランジアン密度 \tilde{\mathcal{L}} を書きだすと,

\tilde{\mathcal{L}} \left( \bm{x}(t) , \frac{ d \bm{x}(t)}{dt} \right) \equiv \frac{1}{2} \left[ \frac{d \bm{x}(t)}{dt} \right] ^{2} - \tilde{U} ( \bm{x}(t)) \tag{2.2}

です.

2.2 最小作用の原理

\bm{x} による変分 \delta \bm{x}(t) \equiv \bm{x}^{\prime}(t) - \bm{x}(t) を行い, 部分積分を行い, 全微分の項を境界条件により除いて整理すると,
\delta S \left[ \bm{x} \right] = \int dt m \left[ -\frac{d^{2}\bm{x}(t)}{dt^{2}}+\tilde{F}(\bm{x}(t)) \right] \cdot \delta\bm{x}(t) \tag{2.3}

となります. ここで, \delta\frac{d}{dt} が可換であること, \tilde{\bm{F}}(\bm{x}(t))\equiv -\frac{\partial \tilde{U}(\bm{x}(t))}{\partial \bm{x}(t)} であることを用いました. こうして, 最小作用の原理からニュートンの運動方程式が求まります. なお, (2.3)の変分で以下のラグランジュ方程式を導けば,そこからもニュートンの運動方程式が得られます.

\frac{ \partial \tilde{\mathcal{L}} \left( \bm{x}(t) , \frac{ d \bm{x}(t)}{dt} \right) }{ \partial \bm{x}(t) } -\frac{d}{dt} \frac{ \partial \tilde{\mathcal{L}} \left( \bm{x}(t) , \frac{ d \bm{x}(t)}{dt} \right) }{ \partial \left( \frac{d \bm{x}(t)}{dt} \right) } = \bm{0} \tag{2.4}

3.流体力学への拡張のための道具(オイラー表現, 位置関数)

本記事では, オイラー表現, すなわちすべての物理量を位置 \bm{y} と 時間 t の場の量として取り扱うことにします.速度場, 密度場, 応力(の場)をそれぞれ, \bm{u}(\bm{y},t) , \rho(\bm{y},t) , \mathrm{P}(\bm{y},t)\mathrm{P} はテンソル場です.)と表すことにします.

物理量は流体要素と共に流れていくわけですから, オイラー表現では, 物理量の時間微分はラグランジュ微分(Lagrangian derivative) \frac{D}{Dt} \equiv \frac{\partial}{\partial t} + \bm{u}(\bm{y},t) \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}} で与えられることになります.

さて,ここで,筆者が「位置関数(position function)」と名付けた新規の場の量を導入します.それは単にその位置を返す関数です.

\bm{x}:(\bm{y},t) \longmapsto \bm{y} \tag{3.1}

位置関数 \bm{x}(\bm{y},t) の時間微分を取ってみます.

\frac{D \bm{x}(\bm{y},t)}{Dt} &= \frac{\partial \bm{x}(\bm{y},t)}{\partial t}+\left[ \bm{u}(\bm{y},t) \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}} \right] \bm{x}(\bm{y},t) \\ &= \frac{\partial \bm{y}}{\partial t} + \left[ \bm{u}(\bm{y},t) \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}} \right] \bm{y} \\ &= \bm{u}(\bm{y},t) \tag{3.2}

となり, この意味で位置関数は「位置」としてwell-defined(矛盾なく定まっているもの)であり, オイラー表現における「位置」の役割を果たしていることが分かります.

位置関数の変分は \delta{\bm{x}}(\bm{y},t) \equiv \bm{x}^{\prime}(\bm{y},t) - \bm{x}(\bm{y},t) であり, 位置関数の変分 \delta と時間微分 \frac{D}{Dt} は可換になります. これで準備が整いました.

4.コーシー運動量方程式の導出

では, いよいよ流体力学の場合を考えます.戦略としては,質点の場合を「包含」するような形で作用を拡張します. それは次のような形になります.

4.1 作用

S \left[ \bm{x} \right] &= \int dt \int_{V} dV \rho (\bm{y},t) \tilde{\mathcal{L}} \left( \bm{x}(\bm{y},t), \frac{D \bm{x}(\bm{y},t)}{Dt} \right) \\&= \int dt \int_{V} dV \rho (\bm{y},t) \left[ \frac{1}{2} \left[ \frac{D \bm{x}(\bm{y},t)}{Dt} \right]^{2} +\frac{1}{\rho(\bm{y},t)}\frac{\partial \mathrm{P}(\bm{y},t)}{\partial \bm{y}} \cdot \bm{x}(\bm{y},t) - \tilde{U}(\bm{x}(\bm{y},t)) \right] \tag{4.1}

ここで, \frac{\partial \mathrm{P}}{\partial \bm{y}} は成分で書くと以下になります.

\frac{\partial \mathrm{P}}{\partial \bm{y}} =  \begin{bmatrix}      \frac{\partial \mathrm{P} _{11}}{\partial y_{1}} + \frac{\partial \mathrm{P} _{12}}{\partial y_{2}} + \frac{\partial \mathrm{P} _{13}}{\partial y_{3}} \\       \frac{\partial \mathrm{P} _{21}}{\partial y_{1}} + \frac{\partial \mathrm{P} _{22}}{\partial y_{2}} + \frac{\partial \mathrm{P} _{23}}{\partial y_{3}} \\      \frac{\partial \mathrm{P} _{31}}{\partial y_{1}} + \frac{\partial \mathrm{P} _{32}}{\partial y_{2}} + \frac{\partial \mathrm{P} _{33}}{\partial y_{3}}    \end{bmatrix} \tag{4.2}

ラグランジアン密度 \tilde{\mathcal{L}} を書きだすと,

\tilde{\mathcal{L}} \left( \bm{x}(\bm{y},t),\frac{D\bm{x}(\bm{y} ,t)}{Dt} \right) \equiv \frac{1}{2} \left[ \frac{ D \bm{x} ( \bm{y},t)}{Dt} \right] ^{2} + \frac{1}{\rho (\bm{y},t)} \frac{\partial \mathrm{P}(\bm{y},t)}{\partial \bm{y}} \cdot \bm{x}(\bm{y},t) - \tilde{U} ( \bm{x}(\bm{y} ,t)) \tag{4.3}

です.

さて, ここで, 上記の作用(4.1)あるいはラグランジアン密度(4.3)で, 変数 \bm{y} がなくなる(つまり流体要素の広がりがなくなる)と, 位置関数が位置ベクトルになると共に \frac{D}{Dt}\frac{d}{dt} になり, 応力はそもそもないのでゼロになると考えれば, 質点の場合の作用(2.1)あるいはラグランジアン密度(2.2)に対応するようになります. このため, 質点の場合を包含するためには, 流体要素を質点にシュリンクさせたときに応力を含む項が位置ベクトルの関数として残ってはならないので, 応力は陽に位置関数の関数であることはできず, (\bm{y},t) の関数であるとすることが重要な意味を持ちます.

4.2 最小作用の原理

\bm{x} による変分を行い, 部分積分を行い, 全微分の項を境界条件により除いて整理すると,
\delta S \left[ \bm{x} \right] &= \int dt \left[ -\int_{V} dV \rho(\bm{y},t)\frac{D^{2}\bm{x}(\bm{y},t)}{Dt^{2}} + \int_{V} dV \frac{\partial \mathrm{P}(\bm{y},t)}{\partial \bm{y}}+ \int_{V} dV \rho(\bm{y},t)\tilde{F}(\bm{x}(\bm{y},t)) \right] \cdot \delta \bm{x}(\bm{y},t) \\ &= \int dt \left[ -\int_{V} dV \rho(\bm{y},t)\frac{D^{2}\bm{x}(\bm{y},t)}{Dt^{2}} + \oint_{S=\partial V} dS \bm{n} \mathrm{P}(\bm{y},t) + \int_{V} dV \rho(\bm{y},t)\tilde{F}(\bm{x}(\bm{y},t)) \right] \cdot \delta \bm{x}(\bm{y},t) \tag{4.4}

となります. ここで, ガウスの定理 \int_{V} dV \frac{\partial \mathrm{P}}{\partial \bm{y}} = \oint_{S=\partial V} dS \bm{n} \mathrm{P} および \tilde{\bm{F}}(\bm{x}(\bm{y},t))\equiv -\frac{\partial \tilde{U} (\bm{x}(\bm{y},t))}{\partial \bm{x}(\bm{y},t)} であることを用いました. こうして, 最小作用の原理からコーシーの運動量方程式が得られます. なお, (4.4)の変分で以下のラグランジュ方程式を導けば,そこからもコーシーの運動量方程式が得られます.

\frac{ \partial \tilde{\mathcal{L}} \left( \bm{x}(\bm{y},t) , \frac{ D \bm{x}(\bm{y},t)}{Dt} \right) }{ \partial \bm{x}(\bm{y},t) } -\frac{D}{Dt} \frac{ \partial \tilde{\mathcal{L}} \left( \bm{x}(\bm{y},t) , \frac{ D \bm{x}(\bm{y},t)}{Dt} \right) }{ \partial \left( \frac{D \bm{x}(\bm{y},t)}{Dt} \right) } = \bm{0} \tag{4.5}

5.最終結果には位置関数は陽には登場しなくてもよい

コーシーの運動量方程式は, 式(1.2)という形以外に, 式(4.4)でガウスの定理を使う前の式から, \nabla \equiv \frac{\partial}{\partial \bm{y}} を用いると,

\rho \frac{ D \bm{u}}{Dt} = \nabla \mathrm{P}+ \rho \tilde{\bm{F}} \tag{5.1}

という形でも表せます. いずれにしても, \tilde{F}(\bm{x}(\bm{y},t)) を 単に \tilde{F}(\bm{y},t) と捉えれば, 導出結果には位置関数は陽には現れなくてよいことになります. 従来, 位置関数という発想が登場しなかったのは, コーシーの運動量方程式から出発して議論してきており, 位置関数は陽に現れなくて済んでいたからだったのかもしれません. しかし, たとえば流体力学をハミルトン形式で記述する場合には本質的に位置関数が必要になります.

6.流体力学をハミルトン形式の力学で記述した場合

位置関数 \bm{x}(\bm{y},t) を正準変数にとり, 正準運動量 \bm{\pi}(\bm{y},t) を以下で定義します.

\bm{\pi}(\bm{y},t) &\equiv \frac{ \partial \tilde{ \mathcal{L}} \left( \bm{x} (\bm{y},t), \frac{D \bm{x} (\bm{y},t)}{Dt} \right) }{\partial \left( \frac{D \bm{x} (\bm{y},t)}{Dt} \right)} \\&= \frac{D \bm{x} (\bm{y},t)}{Dt} \tag{6.1}

するとハミルトニアン密度は,

\tilde{\mathcal{H}}(\bm{\pi}(\bm{y},t), \bm{x}(\bm{y},t)) &\equiv \left[ \frac{D \bm{x}(\bm{y},t)}{Dt} \right] \cdot \bm{\pi}(\bm{y},t) - \tilde{\mathcal{L}} \left( \bm{x}(\bm{y},t), \frac{D \bm{x}(\bm{y},t)}{Dt} \right) \\ &= \frac{1}{2} \left[ \frac{D \bm{x}(\bm{y},t)}{Dt} \right]^{2} -\frac{1}{\rho(\bm{y},t)}\frac{\partial \mathrm{P}(\bm{y},t)}{\partial \bm{y}} \cdot \bm{x}(\bm{y},t) +\tilde{U}(\bm{x}(\bm{y},t)) \tag{6.2}

となり, 次のハミルトン方程式(Hamilton's equations)が成り立つことが容易に確認できます.

\frac{D \bm{x}(\bm{y},t)}{Dt} &= \frac{\partial \tilde{\mathcal{H}}(\bm{\pi}(\bm{y},t), \bm{x}(\bm{y},t))}{\partial \bm{\pi}(\bm{y},t)}  \tag{6.3}\\ \frac{D \bm{\pi}(\bm{y},t)}{Dt}&= -\frac{\partial \tilde{\mathcal{H}}(\bm{\pi}(\bm{y},t), \bm{x}(\bm{y},t))}{\partial \bm{x}(\bm{y},t)}  \tag{6.4}\\ \frac{D \tilde{\mathcal{H}}(\bm{\pi}(\bm{y},t), \bm{x}(\bm{y},t))}{Dt}&= -\frac{D \tilde{\mathcal{L}} \left( \bm{x}(\bm{y},t), \frac{D \bm{x}(\bm{y},t)}{Dt} \right)}{Dt}  \tag{6.5}

7.ナヴィエ・ストークス方程式との関係 構成方程式との独立性

等方的なニュートン流体の場合, 応力は次の形になります.

\mathrm{P}_{ij} = -p \delta_{ij} + \lambda \delta_{ij} \frac{ \partial u_{k}}{\partial y_{k}} + \mu \left( \frac{\partial u_{i}}{\partial y_{j}} + \frac{\partial u_{j}}{\partial y_{i}} \right) \tag{7.1}

ここで, \delta_{ij} , p , \mu , \lambda はそれぞれクロネッカーのデルタ, 圧力, 粘性率, 第2粘性率です.

式(7.1)をコーシーの運動量方程式(5.1)に代入すると, 以下のナヴィエ・ストークス方程式(Navier-Stokes Equation)が得られます.

\rho \frac{D \bm{u}}{Dt} = -\nabla p + (\lambda + \mu ) \nabla (\nabla \cdot \bm{u}) + \mu \nabla ^{2} \bm{u} +\rho \tilde{\bm{F}} \tag{7.2}

式(7.1)のように応力の具体的な形を与える式を構成方程式(Constitution Equation)と呼びますが, 上述のように, 応力は陽に位置関数の関数ではないため(等方的なニュートン流体の応力(7.1)も位置関数を陽には含んでいません.), 構成方程式は最小作用の原理によるコーシーの運動量方程式の導出過程には影響せず, 最小作用の原理とは独立になっています.

8.質量保存則とエネルギー保存則

コーシーの運動量方程式(1.2)では, \tilde{\bm{F}}(\bm{x}(\bm{y},t)) は与えられるとして, \rho (\bm{y},t)\mathrm{P}(\bm{y},t) が分かっていれば, すべての (\bm{y},t) について \bm{u}(\bm{y},t) が決定され,流体の状態が完全に決定されます.しかし, そのためには \rho (\bm{y},t) あるいは \mathrm{P}(\bm{y},t) はコーシーの運動量方程式とは別に決定しなければなりません.このうち \rho (\bm{y},t) については質量保存の法則により決定できます.質量保存則は次の形で表せます.

\frac{D }{Dt} ( \rho dV )= 0 \tag{8.1}

系の単位質量あたりのエネルギー \tilde{E} は次のように表せます.

\tilde{E}  \equiv \frac{1}{2} \left[ \frac{D \bm{x}(\bm{y},t)}{Dt} \right]^{2} -\frac{1}{\rho(\bm{y},t)}\frac{\partial \mathrm{P}(\bm{y},t)}{\partial \bm{y}} \cdot \bm{x}(\bm{y},t) +\tilde{U}(\bm{x}(\bm{y},t)) \tag{8.2}

系全体のエネルギー E を求める際には, ある領域 V のみでなくその領域以外である \bar{V} のところも, すなわち全領域 V \cup \bar{V} について考慮しなければなりません.なぜなら, 領域 V の境界でのエネルギーの流出入があり得るからです.そのため,

E &= \int_{V \cup \bar{V}} \rho dV \tilde{E} \\   &= \int_{V \cup \bar{V}} \rho dV \left( \frac{1}{2} \left[ \frac{D \bm{x}}{Dt} \right]^{2} -\frac{1}{\rho}\frac{\partial \mathrm{P}}{\partial \bm{y}} \cdot \bm{x} +\tilde{U} \right)   \tag{8.3}

となります.ここで二項目はただちにゼロになります.なぜなら, V \cup \bar{V} 内の任意の境界について, その外側に向かう法線ベクトルを \bm{n} としたとき, \bm{P}(-\bm{n})=-\bm{P}(\bm{n}) (ただし, (\bm{P}(\bm{n}))_{i} = \mathrm{P}_{ij} n_j )ということ, すなわち作用反作用の法則が成り立っているからです.

さて, 質量保存則(8.1)より, \frac{D}{Dt}(\rho dV \tilde{E})=\rho dV \frac{D \tilde{E}}{Dt} なので,

\frac{DE}{Dt} &= \int_{V \cup \bar{V}} \rho dV \frac{D \tilde{E}}{Dt} \\ &= \int_{V \cup \bar{V}} \rho dV \left[  \left( \frac{D^{2} \bm{x}}{Dt^{2}}-\frac{1}{\rho} \frac{\partial \mathrm{P}}{\partial \bm{y}} - \tilde{\bm{F}} \right) \cdot \frac{D \bm{x}}{Dt}  + \frac{1}{\rho} \frac{\partial \mathrm{P}}{\partial \bm{y}} \cdot \frac{D \bm{x}}{Dt} \right] \\&= \int_{V \cup \bar{V}} \rho dV \frac{1}{\rho} \frac{\partial \mathrm{P}}{\partial \bm{y}} \cdot \frac{D \bm{x}}{Dt} \\&= \int_{V \cup \bar{V}} \rho dV \frac{1}{\rho} \frac{\partial \mathrm{P}}{\partial \bm{y}} \cdot \bm{u} \\&= 0\tag{8.4}

ここで, 二番目の等式ではあえて応力の項を復活させました.三番目の等式でコーシーの運動量方程式 \frac{D^{2} \bm{x}}{Dt^{2}} = \frac{1}{\rho} \frac{\partial \mathrm{P}}{\partial \bm{y}} + \tilde{\bm{F}} (式(5.1)と同じ)を用いました.そして, 最後の等式はやはり作用反作用の法則によってゼロとなっています.

ナヴィエ・ストークス方程式(7.2)の場合には, \rho , p , \bm{u} の都合5つの量がすべての (\bm{y},t) で決定されれば流体の状態が完全に決定されます.そのためには, コーシーの運動量方程式と質量保存則(8.1)とエネルギー保存則(8.4)の式があれば十分です. しかし一般の流体については, 応力テンソル自体には \mathrm{P}_{ij}=\mathrm{P}_{ji} といった性質しかないのため, その6個の独立成分を決定する方程式系が必要になります.

伝統的な流体力学では, もっとも一般的な形では, 変形速度テンソル \mathrm{X}_{ij} \equiv \frac{1}{2} \left( \frac{\partial u_{i}}{\partial y_{j}}+\frac{\partial u_{j}}{\partial y_{i}} \right) を用いて以下の式(8.5)から応力テンソル \mathrm{P}_{ij} の関数形を決定する必要があります.

\mathrm{P}_{ij} (\mathrm{X}_{kl}+d \mathrm{X}_{kl})= e^{d \mathrm{X}_{pq}\frac{\partial}{\partial \mathrm{X}_{pq}}} \mathrm{P}_{ij} (\mathrm{X}_{kl}) \tag{8.5}

ただし, \mathrm{X}_{ij}=0 のとき, \mathrm{P}_{ij}(0)=-p\delta_{ij} です.ナヴィエ・ストークス方程式の構成方程式(7.1)は式(8.5)で一次の微分項まで考え \mathrm{X}_{ij}=0 としたものに対応しています.

関数形の決定にあたっては,その一つの条件としてエネルギー保存則(8.4)を用いることができます.また, ナヴィエ・ストークス方程式のような構成方程式がすでにあるならばそれを用いて決定することができます.

しかし一体, そもそも応力とは何なのでしょうか? 次節ではそれをもう一度考え直し, 応力の新しい形を提示します.そして応力が位置関数を陽に含んでいないということも確認します.

9.応力の新しい形の提示

本記事で目標としていたのは, 質点に関するニュートンの力学を流体要素(より正確には連続体)に拡張することでした.そのような観点で見た場合に応力とは何なのでしょうか? この観点では, 物理量は場の量になるわけですが, 連続体は, すべての位置と時刻で密度場と速度場を決定すれば決定されます.そこに応力は登場しません.登場する必要はないのです.なぜなら, 応力とは, 近接した位置の密度場と速度場の関係の名に過ぎないからです.実際, 応力は以下に示すように密度場と速度場だけでexplicitに表せます.

流れの場があったときに,質量(つまり密度場)と速度場でできる運動量(的な量)の時間微分による力(的な量)の近接した位置での差から応力を定義できます.すなわち,

dS \bm{n}\mathrm{P} \equiv d \left[ \frac{D(\rho dV\bm{u})}{Dt} \right] =  d \left[ \rho dV \frac{D\bm{u}}{Dt} \right] =  d \left[ \rho dV \frac{D^{2}\bm{x}}{Dt^{2}} \right] \tag{9.1}

位置の変位による変位(つまりはテイラー展開)を明示すれば,

dS \bm{n}\mathrm{P} &\equiv \left[  e^{d \bm{y} \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}}} -1 \right]  \left[ \rho dV \frac{D\bm{u}}{Dt} \right]  \tag{9.2}\\&=\sum^{\infty}_{k=1}\frac{1}{k!} \left(d\bm{y} \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}} \right)^{k} \left[ \rho dV \frac{D\bm{u}}{Dt} \right] \tag{9.3}\\&= \left[ \left(d\bm{y} \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}} \right) + \frac{1}{2} \left(d\bm{y} \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}} \right)^{2} + \frac{1}{6} \left(d\bm{y} \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}} \right)^{3} + \frac{1}{24} \left(d\bm{y} \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}} \right)^{4} + \cdots \right]  \left[ \rho dV \frac{D\bm{u}}{Dt} \right] \\ \tag{9.4}

となります.ここで, 面積要素ベクトル dS \bm{n} と変位ベクトル d\bm{y} は平行です.

式(9.2)あるいは式(9.3)あるいは式(9.4)からは, たとえば, 流体が一瞬で凍結すれば密度場と速度場の勾配は共にゼロであることから, 応力はゼロになることなども分かります.

式(9.1)や式(9.2)は成分で書けば, dS n_{j} \mathrm{P}_{ij} = d \left[ \rho dV \frac{D u_{i}}{Dt} \right]\frac{1}{2}\epsilon _{jkl} dy_{k}dy_{l} \mathrm{P}_{ij} = \left[  e^{dy_{j} \cdot \frac{\partial}{\partial y_{j}}} -1 \right]  \left[ \rho dy_{1}dy_{2}dy_{3} \left( \frac{\partial  u_{i}}{\partial t}+u_{j} \frac{\partial u_{i}}{\partial y_{j}} \right) \right] ( ここで, \epsilon_{jkl} はレビ・チビタ記号です )などと表せます.

応力はものの流れを先に立てれば, その結果的な力(そしてある意味では見かけ上の力)に過ぎないのです.ですから, 式(9.1)あるいは式(9.2)を使えば, 流体の基礎方程式であるコーシーの運動量方程式(1.2)は,

\int_V \rho dV \left[ \frac{D\bm{u}}{Dt} \right] = \oint_{S=\partial V} d \left[ \rho dV \frac{D\bm{u}}{Dt} \right]+ \int_V \rho dV \tilde{\bm{F}} \tag{9.5}

あるいは

\int_V \rho dV \left[ \frac{D\bm{u}}{Dt} \right] &= \oint_{S=\partial V}\left[ e^{d \bm{y} \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}}} -1 \right]  \left[ \rho dV \frac{D\bm{u}}{Dt} \right]+ \int_V \rho dV \tilde{\bm{F}} \\&= \oint_{S=\partial V}\sum^{\infty}_{k=1}\frac{1}{k!} \left(d\bm{y} \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}} \right)^{k} \left[ \rho dV \frac{D\bm{u}}{Dt} \right] + \int_V \rho dV \tilde{\bm{F}} \\&= \oint_{S=\partial V}\left[ \left(d\bm{y} \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}} \right) + \frac{1}{2} \left(d\bm{y} \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}} \right)^{2} + \frac{1}{6} \left(d\bm{y} \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}} \right)^{3} + \frac{1}{24} \left(d\bm{y} \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}} \right)^{4} + \cdots \right]  \left[ \rho dV \frac{D\bm{u}}{Dt} \right]+ \int_V \rho dV \tilde{\bm{F}} \\ \tag{9.6}

となり, ここにはもう応力は要りません.もし原因力と結果力という言い方をするなら, 外力 \bm{F} という原因力によって密度場 \rho と速度場 \bm{u} が決定され, それらから結果力(的な量)としてあえて応力を定義することもできるというだけです.

ところで, 式(9.5)あるいは(9.6)では, 粘性はどこへ消えてしまったのかと思うかもしれません.心配ありません.粘性とはもとをたどれば慣性に起因しているから密度場のところに「いる」のです.

流体(より一般的には連続体)で決定すべきは密度場 \rho と速度場 \bm{u} だけであるので, 実は質量保存の式(8.1)とコーシーの運動量方程式(9.5)(あるいは(9.6))だけがあれば決定されてしまいます.ナヴィエ・ストークス方程式などでは, ある意味で余計なパラメータを導入して応力を近似しているため,流体の状態の決定に必要な方程式が余計に増えてしまっているのです.

本記事で導入した位置関数との関連について述べます.ここでは「位置場(position field)」と呼んだ方が適切かもしれませんので位置場と呼ぶことにしますと, 連続体はすべての位置と時刻での密度場と位置場を決定すれば決定される, と表現でき, 式(9.5)あるいは式(9.6)によって以下のように質点の運動を包含しつつ拡張された形での議論が可能になります.

\int_V \rho dV \left[ \frac{D^{2} \bm{x}}{Dt^{2}} \right] = \oint_{S=\partial V} d \left[ \rho dV \frac{D^{2} \bm{x}}{Dt^{2}} \right]+ \int_V \rho dV \tilde{\bm{F}} \tag{9.7}

あるいは

\int_V \rho dV \left[ \frac{D^{2} \bm{x}}{Dt^{2}} \right] &= \oint_{S=\partial V}\left[ e^{d \bm{y} \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}}} -1 \right]  \left[ \rho dV \frac{D^{2} \bm{x}}{Dt^{2}} \right]+ \int_V \rho dV \tilde{\bm{F}} \\&=\oint_{S=\partial V}\sum^{\infty}_{k=1}\frac{1}{k!} \left(d\bm{y} \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}} \right)^{k} \left[ \rho dV \frac{D^{2} \bm{x}}{Dt^{2}} \right]+ \int_V \rho dV \tilde{\bm{F}} \\&= \oint_{S=\partial V}\left[ \left(d\bm{y} \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}} \right) + \frac{1}{2} \left(d\bm{y} \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}} \right)^{2} + \frac{1}{6} \left(d\bm{y} \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}} \right)^{3} + \frac{1}{24} \left(d\bm{y} \cdot \frac{\partial}{\partial \bm{y}} \right)^{4} + \cdots \right]  \left[ \rho dV \frac{D^{2} \bm{x}}{Dt^{2}} \right]+ \int_V \rho dV \tilde{\bm{F}} \\ \tag{9.8}

ここで, 位置場(位置関数)というのは式(3.1)より自明であり, その意味で方程式(9.8)はもう解けてしまっており, しかも不思議なことにその解は密度場や外力に全然依っていません! この不思議の秘密はラグランジュ微分にあります.ラグランジュ微分には速度場が含まれ, そこに密度場や外力の影響が吸収されているわけです.ラグランジュ微分の速度場は位置場のラグランジュ微分から求められますが,そこにまた速度場が含まれ…という本節の最後に述べる位置関数の性質(内的開展)により, 流体の状態を知るには実質的にはやはり方程式(9.6)を解くことになり(よって密度場や外力を考慮することになり), 解が自明ではなくなります.

なお, 主題が拡散し過ぎてしまうのでここでは立ち入りませんが, 式(9.5)あるいは式(9.6)は, 当然のことではありますが, 質点系の運動方程式において, 質点系の中にある閉じた境界を設定し, その領域についての運動を記述する式を考えた場合と整合しています.

さて, 式(9.1)あるいは式(9.2)からは, 応力が位置関数を陽に含まず,上記議論を裏付けるものであることが分かります.

最後に, 位置関数のある性質(内的開展)について説明します.速度場は, 位置関数のラグランジュ微分で表されますが,そのラグランジュ微分の中にまた速度場がありますので, それもまた位置関数のラグランジュ微分で表され,そのラグランジュ微分の中にまた速度場があるのでそれもまた位置関数のラグランジュ微分で表され…と,無限に開展する構造があります.これは連続体というものの特性を表しています.

u_i &= \frac{Dx_i}{Dt} \\&= \left(\frac{\partial}{\partial t}+u_j\frac{\partial}{\partial y_j}\right)x_i \\&= \left(\frac{\partial}{\partial t}+\left(\frac{\partial}{\partial t}+u_k\frac{\partial}{\partial y_k}\right)x_j\frac{\partial}{\partial y_j}\right)x_i \\&= \left(\frac{\partial}{\partial t}+\left(\frac{\partial}{\partial t}+\left(\frac{\partial}{\partial t}+u_l\frac{\partial}{\partial y_l}\right)x_k\frac{\partial}{\partial y_k}\right)x_j\frac{\partial}{\partial y_j}\right)x_i \\&= \left(\frac{\partial}{\partial t}+\left(\frac{\partial}{\partial t}+\left(\frac{\partial}{\partial t}+\left(\frac{\partial}{\partial t}+u_m\frac{\partial}{\partial y_m}\right)x_l\frac{\partial}{\partial y_l}\right)x_k\frac{\partial}{\partial y_k}\right)x_j\frac{\partial}{\partial y_j}\right)x_i \\&= \left(\frac{\partial}{\partial t}+\left(\frac{\partial}{\partial t}+\left(\frac{\partial}{\partial t}+\left(\frac{\partial}{\partial t}+\left(\cdots\cdots\right)x_m\frac{\partial}{\partial y_m}\right)x_l\frac{\partial}{\partial y_l}\right)x_k\frac{\partial}{\partial y_k}\right)x_j\frac{\partial}{\partial y_j}\right)x_i \tag{9.9}

10.おわりに

ここに提案した議論の特長は, (i)従来の質点の運動方程式に関する最小作用の原理あるいは変分原理を, 位置関数というものを導入する事によって, 連続体の運動方程式に拡張できたこと, (ii)この定式化により, 熱力学を援用しない形で連続体としての議論を完結できたこと, (iii)応力が何であるかをその新しい形を提示することで示し, 粘性の意味も含めて, 流体力学の基礎を直截に説明できたことにあるのではないかと思います.

本記事の内容は筆者のオリジナルであり, 世の中に広まっているものではありません.読者諸賢に発展していただけることを願っています.

なお, やや詳しい計算を記した英文メモ(An English Memo: Principle of Least Action in Fluid Mechanics)が こちら にあります.

また, ある場所で発表したプレゼン資料が こちら2 にあります.