天体望遠鏡で大口径のレンズが望まれるのはなぜでしょうか.ここではフレネル回折の性質を用いた レンズの公式の導き方と開口部の影響の計算の仕方を紹介します.計算に作用素代数を用いているのが 特徴です.
軸方向に進む平面波が 平面内に置かれた開口を通過するときのフレネル回折の式
から出発します[1].ここで は点 における波面(のフェーザ), は波長, は(開口部で 1,遮蔽部で 0 となる)開口関数です [*] .
[*] | 軸に垂直な平面波の波動は のように表されますが, 時間変化を表す は空間内で共通なので,通常は残りの部分(フェーザ) だけを考えます. |
とおくと,畳み込み積分
を使って を
と表すことができます.また ですから
が成立します.すなわち は の2次元フーリエ変換を 倍に拡大した関数に をかけたものに等しくなります. このことは が文字の形に切り抜かれた開口でも,さらに開口の直前に適当な光学素子を おいたとして を複素数値の関数 で置換したときでも変わりません. ただし, フレネル近似が成立するためには の 0 でない部分は に比べて十分小さいことが 必要です.
人が知覚したり,媒体に記録するのは波面 そのものでなく,強度分布 です.上記の式に含まれる は , に依存しない定数なので,フレネル回折の簡易モデル として,以下では
を考えましょう(後述の光学素子も同様にモデル化します).
点 での値が である関数 を,点 での値が
である関数 に変換する写像 を(2次元の)フーリエ変換といい, とかきます. , です.一般に関数を関数に変換する写像を 作用素といいます.例えば微分作用素はある関数をその導関数に変換します.
を点 での値が である関数や である関数, である関数に変換する写像も作用素です.以下ではこれらの作用素を , , で表します.すなわち,
です.ここで, は任意の関数, , は任意の定数で,慣例に従って
と考えます.また,以下でよく使う次の関数もここで定義しておきましょう.
よく知られているように,フーリエ変換について次の公式が成立します.
ここで は
という性質をもつ2次元のデルタ関数です.これらの記号を用いると,簡易化したフレネル回折の 作用素 を
で定義でき,さきに積分形式で示したように
が成立します. であることは
で容易に確認できます.
軸方向の位相変化を無視すると,開口が十分に広く,焦点距離が である凸レンズの 機能は作用素 で表され,
より, すなわち
であれば
が成立します.これがレンズの公式です.
レンズの開口関数 を無視できないときは とおいて の影響を解析できます.
ですから, は と表され,開口が狭くなると がデルタ関数で近似できなくなり,畳み込み積分によって がぼけてきます.これが大口径のレンズが望まれる理由です.
一般に の強度分布は のコヒーレンシー(可干渉性)に依存します.線形の作用素 を 用いて と表される光学系に対して と定義しますと, の各点の位相が完全に同期している場合は
の各点の位相が完全にランダムの場合は
で求められます.なお, となる が存在するとき を光学伝達関数といいます.
フーリエ光学に限らず,情報を変換する物理系や機器の機能を解析するとき,作用素を用いて モデル化すると分かりやすくなることが少なくありません.このことを例示するのが本資料の 趣旨なので公式の証明は割愛しました.