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整域・整数の剰余類の環

整数の全体が環になることは の例で見ました.整数の環を 整数環 と呼ぶのでした.整数環の勉強には,素因数分解,合同など,整数ならではの知識がどうしても必要になってきます.

この記事の最後に整数の剰余類の環について勉強しますが,そこで,二つの整数 a,b とその最大公約数 d に対し,次の関係式を満たす整数 x,y が必ず一組存在することを使います.

d=ax+by                \tag{1}

このような x,y を探す問題はディオファントス方程式と呼ばれ,必ず解が一意的に決まることが知られていますが,ここでは解の存在証明は省略します(ゴメンナサイ (>_<)).

二つの整数 a,b の最大公約数 d は, d=(a,b) という記号で書くことにします. (a,b)=1 となるとき aとbは互いに素である といい,自分より小さな全ての整数と互いに素になる整数を 素数 と呼びます.

整域

整数環に関係深い概念に 整域 があります.整域の定義は,『可換環で,単位元を持ち,零元以外に零因子を持たない環』です.

整域の例として重要なのは, 整数環多項式環 です.

整数環

整数環とは,普通の整数全体のことです.さきほど見たように,普通の意味で整数の足し算・掛け算を考えることで整数全体は環となります.整数の掛け算は可換です.しかも単位元 1 を持ち,零因子はありません.

ですから,整数環は整域になるわけです.

[*]整域という名前から分かるように,そもそも整域とは,整数の性質を念頭に置いて考え出された概念です.

多項式環

実数係数の多項式全体は,通常の加法と乗法に関して可換環になります.(これを R 上の多項式環と呼び,以後 R[x] と書きます. R は,実数体の意味です.)

次の二つの多項式に対し,加法と乗法がなりたつことを確認してみてください.

f_{1}(x)=a_{0}x^{m}+a_{1}x^{m-1}+...+a_{m-1}x+a_{m} f_{2}(x)=b_{0}x^{n}+a_{1}x^{n-1}+...+a_{n-1}x+a_{n}

多項式環の単位元は 1 です.また 0 以外に零因子はありません.(もし多項式環に零因子があるならば, (x-a)(x-b)=0 という形に因数分解して方程式を解くことが出来なくなります).

多項式環は整域になります.

体では乗法の逆演算として除法が定義されていますので,乗法の零元以外には零因子を持ちません.また,体は単位元を持ち,体の乗法は可換と定義されていました.そこで, 体も整域だ と考えることができます.

整数の剰余類

整数環 Z は加法に関しては群になります.この加法群 Z の整数 m による剰余群を考えます( [k]k の倍数を含む剰余類という意味です).

Z/[m]= \{[0],[1],...,[m-1]\}

整数 k[0],[1],...,[m-1] のうちのどれかに属するはずですが,いま仮に k を含む剰余類を \overline{k} と書くことにすると,すでに の例6で見たように,剰余類の間に加法と乗法を定義できます.

\overline{k} + \overline{l} = \overline{k+l} \bar{k} \bar{l} = \overline{kl}

ここで m を素数ではないとすると, mm=m_{1}m_{2} のように素因数分解できるはずです.このとき \overline{m_{1}}\ne \overline{0}, \overline{m_{2}}\ne \overline{0} ですが, \bar{m_{1}}\bar{m_{2}}=\overline{m_{1}m_{2}} = \overline{0} がなりたちますので \overline{m_{1}}, \overline{m_{2}} はそれぞれ互いに零因子であり, Z/[m] は整域ではなくなります.

逆に, m が素数のとき, \overline{0} 以外の剰余類に属する元 a に対して常に (m,a)=1 がなりたちます.そこで式 (1) より 1=mx+ay を満たす整数 x,y が存在しているはずで,剰余を考えると次式が示されます.

\overline{1}&=\overline{mx+ay} \\ &=\overline{mx} +\overline{ay} \\&=\overline{ay}  \  \  (\because \ \overline{mx} = \overline{0}) \\ &=\bar{a} \bar{y}

なんとこれは,式中の \overline{y}\overline{a} の逆元になっているという主張です. a\overline{0} 以外の剰余類に属する任意の元でしたので,結局, m が素数の場合は乗法に逆元も存在することになり, Z/[m] は体になります.(もちろん Z/[m] は整域にもなります.)

Important

整数の剰余類の環 Z/[m] は, m が素数でない場合には零因子が存在し,整域にはならない.(単なる環). m が素数の場合は,整域になり,乗法に逆元が入るので体になる.

整数の剰余環は,法とする整数が素数かどうかで,かなり構造が違ってくるんですね.