私が大学の教養課程において,これが分からず化学系に行くのを断念しました [*] . 同じ轍を踏む人がいないようにこの記事を書きます. これは,熱化学表の見方を勉強しようというものです.
[*] | そう,ある意味,だから僕は物理系なのよ. |
エンタルピー とは,次のような量です.
ただし は系の内部エネルギー, は圧力, は体積です. ここで熱力学第一法則を微分形で書くと,
よって,エンタルピーの微分形は,
エンタルピーは定圧変化において威力を発揮します. 化学反応が起きて,気体が発生したとしましょう. 内部エネルギー変化 は を含むので気体の体積変化を考慮しなければなりません.
しかし,エンタルピー変化は定圧条件 の元では, エントロピーの微分形の定義,
つまり [†] ,
[†] | は不完全微分を表すのでした.反応の始点と終点が共通でも,この不完全微分の量は反応経路により, 変わってきます.状態量にはなりえないのです. |
より,
となり,状態量 の変化量 で出入りする熱量 が表現できるのです.
特に反応の始点と終点が共に標準状態(その物質のある温度における圧力 の下での純粋な形で存在する状態です.) の時に,出入りする熱量を標準反応エンタルピー と言います.これは, 高校までの化学において,反応熱と言う概念がありましたが,それの符号を変えたものが標準反応エンタルピー だと考えて良いと思います.「符号を変える」とは,どういうことかというと,エンタルピーは,メタンなどのようにエネルギーをたくさんもっている物質では高く,二酸化炭素のようにエネルギーをあまりもっていない物質では,低いからです. メタンが酸素と反応(燃焼)して,どれだけエネルギーを減らしたかが反応エンタルピー( )なのです. この時,反応熱 は,どれだけ熱を放出したかでしたので, ですね. この様に,反応熱と反応エンタルピーの符号が反対なのは,よろしいでしょうか? ちなみにエンタルピーの計算では,反応にかかわる一つの物質 に注目し,それが一モル反応または生成する時のエンタルピーを 用い,標準モルエンタルピー と呼びます.そして, は気体などの生成に際し,圧力をもって外に仕事をする,その仕事まで考えていると言っていいでしょう.
孤立系において,エントロピーは上昇する方向に反応は進行するというのが,熱力学第二法則の言わんとすることでした. ここで,定圧等温過程を考えます.そして,系 が熱浴 の中に入っている時を考えます.
エネルギーの保存則から,全体のエンタルピー変化 はありませんから,
となります. のエントロピー変化は,等温過程なので, 一定より,簡単に計算できて,
注意して欲しいのは,
であります.ここで, はReactionで反応の, はHeatで,仕事と熱のやり取りのエントロピー変化を 表します.化学反応や混合,相変化などにより,熱のやり取り以上にエントロピーが生成する [‡] のです.
[‡] | 後の議論を見てもらえれば分かるかと思いますが,エンタルピーの減少する反応や相変化ならば,エントロピーが減少するこ ともあります.例えば,気体同士の反応で,容積が減る反応 等の反応が挙げられます.熱の移動を含めたエントロピーがトータルで増加する(ギブズエネルギーが減少する)反応が自発的 に起こる反応です. |
ここで,第二法則よりエントロピーが増える方向にしか反応が進まないので, より,
最後の行の とは,ギブズの自由エネルギー(標準反応ギブズエネルギー)であり,
で定義されます. よって,第二法則より化学反応は,ギブスの自由エネルギーが減少する方向にしか,進まないことが分かりました. 少しこの式の持つ意味を考察してみましょう.低温では, が小さいので反応エンタルピーが反応方向の決定に 大きな影響を及ぼします.逆に高温だと, は負の大きな値をもつので,反応のエントロピー変化が, 大きな影響を及ぼすことになります.
ちなみに,物質のエントロピーの計算は面倒ですが,熱力学第三法則(絶対零度において物質のエントロピーはゼロに等しい.) を利用して計算するようです.
以上で,熱化学表を読むことができるようになるための, 基礎論を終了します.今日は,ここまで.お疲れ様でした.