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グリーン関数を理解しよう(フォトンのグリーン関数)

これからいくつかの記事を通して, 物性物理で扱われる絶対零度におけるグリーン関数の理解を目指します. いくつかの定理などの証明は省略して,要点の俯瞰をする方針で行きます. 参考文献として,下に書くMahan先生の本を挙げて おきます.このシリーズでは \hbar=1 とします. 前の記事は ダイソン方程式と自己エネルギー です. この記事が最後です.( 目次 )

ゲージによるクーロン相互作用とフォトン相互作用の分離

この記事ではフォトンのグリーン関数を求めます. フォトンには偏光の方向があり,少々厄介なので後回しにしたのです. スピン無しの電磁相互作用のハミルトニアンの非相対論的極限は,

H = \sum_i \dfrac{1}{2m} \left[ \bm{p}_i - \dfrac{e_i}{c} \bm{A}(\bm{r}_i) \right]^2 + \dfrac{1}{2} \sum_{i \neq j} \dfrac{e_ie_j}{r_{ij}} + \sum_{\bm{k} \lambda} \omega_{\bm{k} \lambda} a^\dagger_{\bm{k} \lambda} a_{\bm{k} \lambda}\tag{1}

となります.以下では \mu\nu1,2,3 もしくは x,y,z を表すものとします. \lambda は偏光の自由度です. ベクトルポテンシャル A は,

\dfrac{1}{c} A_\mu &= \dfrac{1}{\sqrt{v}} \sum_{\bm{k} \lambda} e^{i \bm{k} \cdot \bm{r}} A_\mu(\bm{k},\lambda,t) \\A_\mu(\bm{k},\lambda,t) &= \left( \dfrac{2 \pi}{\omega_{\bm{k}}} \right) \xi_\mu(\bm{k},\lambda) (a_{\bm{k} \lambda} e^{-i\omega_k t}+a^\dagger_{-\bm{k} \lambda} e^{i\omega_k t})\tag{2}

となります.生成消滅演算子 a^\dagger_{\bm{k} \lambda},a_{\bm{k} \lambda} はボゾンの演算子です. \bm{k} はフォトンの進行方向を向く波数ベクトル, \lambda は偏光の自由度を表すラベルで, \xi_\mu(\bm{k},\lambda) はそれらから指定される実際の変更方向を表すベクトルです.クーロン相互作用とフォトン相互作用は本来同じ相互作用であり,ゲージを設定したことで分離されます.ここでは,クーロンゲージ \nabla \cdot \bm{A} = \bm{0} を用いることで,スカラーポテンシャル \psi がクーロン相互作用,ベクトルポテンシャル \bm{A} がフォトン相互作用にそれぞれ対応するようになります.真空中のスカラーポテンシャル

\psi_0(r) = \dfrac{e^2}{r}\tag{3}

はグリーン関数

v_q = \dfrac{4 \pi e^2}{q^2}\tag{4}

を持ちます.この相互作用は今回の話では瞬間的に伝わる(遠隔作用)という近似をします. このグリーン関数は既に ウィックの定理 で出てきています. 実際これは縦方向(波数ベクトルの方向)ポテンシャルのグリーン関数なのです. この瞬間に伝わる性質から,周波数依存性はありません.

ファノン相互作用で相互作用する二つの電子はフォノングリーン関数 D^{(0)}(\bm{q},\omega) と頂点 |M_{\bm{q}}|^2 に対して,

|M_{\bm{q}}|^2 D^{(0)}(\bm{q},\omega)\tag{5}

で表されました.これに対応して,電子電子相互作用では, \dfrac{4 \pi}{r^2} がグリーン関数であり,頂点は e^2 を表すと見なすことが出来ます.このどちらもグリーン関数として扱われるのです.それならば,ダイソン方程式がクーロン相互作用にも適用できるはずです.

v_q(\omega) = \dfrac{v_q}{1 - v_q P(\bm{q},\omega)}\tag{6}

因子 P(\bm{q},\omega) は自己エネルギー,もしく偏極演算子です.ここから簡単に引き出せる議論があります. 等方的な誘電率 \varepsilon を持った一様媒質中のマクスウェル方程式を考えます.

\nabla \cdot \bm{B} &= \bm{0} \\\nabla \times \bm{E} &= \bm{0} \\\varepsilon \nabla \cdot \bm{E} &= 4 \pi \rho \\\nabla \times \bm{B} &= \dfrac{\varepsilon}{c} \dfrac{\partial}{\partial t} \bm{E} + \dfrac{4 \pi}{c} \bm{j}\tag{7}

これらを解くと,ポテンシャルを使って次の様に表せます.

\psi(\bm{r}) &= \dfrac{1}{\varepsilon} \int \dfrac{d^3 r^\prime \rho(\bm{r}^\prime)}{|\bm{r}-\bm{r}^\prime|} \\\nabla^2 \bm{A} - \dfrac{\varepsilon}{c^2} \dfrac{\partial^2}{\partial t^2} \bm{A} &= - \dfrac{4 \pi}{c} \bm{j}\tag{8}

最初の式を電荷密度を点電荷 \rho(\bm{r}^\prime) = \delta(\bm{r}^\prime) として \bm{r} でフーリエ変換すると,

\bar{v}_q = \dfrac{v_q}{\varepsilon}\tag{9}

となります.これを式 (6) と式 (9) と比較することで,

\varepsilon(\bm{q},\omega) = 1 - v_q P(\bm{q},\omega)\tag{10}

ここでは \bm{q},\omega 依存性を含むように一般化しました. この式は縦方向誘電関数の定義式になります. クーロンポテンシャルの自己エネルギー部分から求まるのです.

フォトンの相互作用の形

ここで非摂動の相互作用 V の形を求めておきましょう.フォトンの場合,これは式 (1) の運動エネルギーに相当する部分からで二つあります.

\dfrac{e}{c}\sum_i \bm{j}(\bm{r}_i) \cdot \bm{A}(\bm{r}_i) &= \dfrac{e}{c} \sum_{\bm{q} \mu} j_\mu(\bm{q}) A_\mu(\bm{q}) \\&= \dfrac{e}{mc} \sum_{\bm{q} \mu} A_\mu(\bm{q}) \sum_{\bm{k} \sigma}(\bm{k} + \dfrac{1}{2} \bm{q})_\mu C^\dagger_{\bm{k}+\bm{q},\sigma} C_{\bm{k} \sigma}\tag{11}

\dfrac{e^2}{2mc^2}\sum_i \bm{A}(\bm{r}_i)^2 &= \dfrac{e^2}{2m} \sum_{\bm{q} \bm{k} \mu} \rho(\bm{q}) A_\mu(\bm{k}) A_\mu(\bm{q} - \bm{k})\tag{12}

です. \rho は荷電粒子密度です.

フォトンのグリーン関数

ベクトルポテンシャルのグリーン関数(フォトンのグリーン関数)の表式は,

D_{\mu \nu}(\bm{k},t-t^\prime) = -i \sum_\lambda \langle | T A_\mu(\bm{k},\lambda,t) A_\nu(-\bm{k},\lambda,t^\prime)  |\rangle\tag{13}

となります. \lambda の和は光子の横方向(波数ベクトル \bm{k} に対する2つの垂直方向)成分の和です. \xi_\mu はそれぞれの成分の偏光ベクトルになります.絶対零度における自由なグリーン関数は | \rangle_0_0 \langle | を光子の真空として,次で表されます.

D^{(0)}_{\mu \nu}(\bm{k},t-t^\prime) &= \dfrac{-2 \pi i}{\omega_{\bm{k}}} \sum_\lambda \xi_\mu(\bm{k},\lambda) \xi_\nu(-\bm{k},\lambda) \ _0\langle | T [(a_{\bm{k} \lambda} e^{-i\omega_k t}+a^\dagger_{-\bm{k} \lambda} e^{i\omega_k t})] \\&\times [(a_{-\bm{k} \lambda} e^{-i\omega_k t^\prime}+a^\dagger_{\bm{k} \lambda} e^{i\omega_k t^\prime})]  |\rangle_0 \\&= \dfrac{-2 \pi i}{\omega_{\bm{k}}} \sum_\lambda \xi_\mu \xi_\nu [ \Theta(t-t^\prime) e^{-i \omega_k (t-t^\prime)} \ _0\langle | a_{\bm{k} \lambda} a^\dagger_{\bm{k} \lambda} | \rangle_0 \\&+ \Theta(t^\prime-t) e^{i \omega_k (t-t^\prime)} \ _0\langle | a_{-\bm{k} \lambda} a^\dagger_{-\bm{k} \lambda} | \rangle_0 ] \\&= \dfrac{-2 \pi i}{\omega_{\bm{k}}} e^{-i \omega|t-t^\prime|} \sum_\lambda \xi_\mu \xi_\nu\tag{14}

ここで, \xi\bm{k} に依存しないことを使い, \lambda を省略しました. そのフーリエ変換は,

D^{(0)}_{\mu \nu}(\bm{k},\omega) &= \int_{-\infty}^\infty dt e^{i \omega(t-t^\prime)} D^{(0)}_{\mu \nu}(\bm{k},t-t^\prime) \\&= \dfrac{4 \pi}{\omega^2-\omega^2_{\bm{k}} + i \delta} \sum_\lambda \xi_\mu \xi_\nu\tag{15}

ここで \sum_\lambda \xi_\mu \xi_\nu がよく分からないのではないでしょうか. これはベクトルのダイアド積と言います.その性質は何らかのベクトル \bm{V} を用いて,

\xi_\mu \xi_\nu \bm{V} &= | \xi_\mu \rangle \langle \xi_\nu | V_\nu \rangle \\&= (\xi_\nu \cdot \bm{V}_\nu) \xi_\mu\tag{16}

が成立します.さて,単位テンソルは次のようになります.

\delta_{\mu \nu} = \hat{x} \hat{x} + \hat{y} \hat{y} + \hat{z} \hat{z}\tag{17}

テンソルは座標系に依らないので, \hat{k} = \bm{k}/|\bm{k}| を使っても,

\delta_{\mu \nu} = \sum_\lambda \xi_\mu \xi_\nu + \hat{k} \hat{k}\tag{18}

となります.

これを行列として具体的に考えてみましょう. k_1^2 +k_2^2 +k_3^2 = 1 として,例えば

\hat{k} = \begin{pmatrix}k_1 \\k_2 \\k_3\end{pmatrix} \tag{19}

とします.よって, \xi_1z 成分をゼロとおく計算で,

\xi_{\lambda=1} &= \xi_1 \\&=\dfrac{1}{\sqrt{k_1^2+k_2^2}}\begin{pmatrix}k_2 \\-k_1 \\0\end{pmatrix} \tag{20} \xi_{\lambda=2} &= \xi_2 \\&=\dfrac{1}{\sqrt{k_1^2+k_2^2}}\begin{pmatrix}k_3 k_2 \\k_3 k_1 \\-k_1^2 - k_2^2\end{pmatrix} \tag{21}

と出来ます.

\xi_1 \xi_1 + \xi_2 \xi_2&= \dfrac{1}{(\sqrt{k_1^2+k_2^2})^2}\begin{pmatrix}k_2 \\-k_1 \\0\end{pmatrix} \begin{pmatrix}k_2 & -k_1 & 0\end{pmatrix} +\dfrac{1}{(\sqrt{k_1^2+k_2^2})^2}\begin{pmatrix}k_3 k_2 \\k_3 k_1 \\-k_1^2 - k_2^2\end{pmatrix} \begin{pmatrix}k_3 k_2 & k_3 k_1 & -k_1^2 - k_2^2\end{pmatrix} \\&= \dfrac{1}{(\sqrt{k_1^2+k_2^2})^2}\begin{pmatrix}k_2^2 & - k_1k_2 & 0 \\- k_1k_2 & k_1^2 & 0 \\0 & 0 & 0\end{pmatrix} + \dfrac{1}{(\sqrt{k_1^2+k_2^2})^2}\begin{pmatrix}k_3^2 k_2^2 & k_3^2 k_1 k_2 & -k_3 k_1(k_1^2+k_2^2) \\k_3^2 k_1 k_2 & k_3^2 k_2^2 & -k_3 k_2(k_1^2+k_2^2) \\-k_3 k_1(k_1^2+k_2^2) & -k_3 k_2(k_1^2+k_2^2) & (k_1^2+k_2^2)^2\end{pmatrix} \\&=\begin{pmatrix}k_2^2 + k_3^2 & -k_1 k_2 & -k_1 k_3 \\-k_2 k_1 & k_3^2 + k_1^2 & -k_2 k_3 \\-k_3 k_1 & -k_3 k_2 & k_1^2+k_2^2\end{pmatrix} \\&= \delta_{\mu \nu} - \hat{k} \hat{k}\tag{22}

となります.一般の場合は, \hat{k} を軸とした回転行列 R_{\mu \nu} として \xi_\mu \to R_{\mu \nu} \xi_\nu とすれば同じ結果が得られます. R^T R = \delta_{\mu \nu} だからです.

話がそれましたが,これで式 (15) が求まりました. k = |\bm{k}| として

D^{(0)}_{\mu \nu}(\bm{k},\omega) = \dfrac{4 \pi[\delta_{\mu \nu} - k_\mu k_\nu /k^2]}{\omega^2-\omega^2_{\bm{k}} + i \delta}\tag{23}

です.これをフォトングリーン関数と呼びます.

忘れないで欲しいのは,これは採用するゲージの条件により変わってくると言う事です. クーロンゲージの採用により,「フォトン」はベクトルポテンシャル部分に決定されます.

フォトンのグリーン関数もまたダイソン方程式に従います.しかし,この場合行列(2階テンソル)の量なので 添え字の扱いには気を付ける必要があります.電子のグリーン関数は,

G(\bm{p},E) &= G^{(0)}(\bm{p},E) + G^{(0)}(\bm{p},E) \Sigma(\bm{p},E) G(\bm{p},E)\tag{24}

これはスカラー関数でしたから,

G(\bm{p},E) &= \dfrac{G^{(0)}(\bm{p},E)}{1 - G^{(0)}(\bm{p},E) \Sigma(\bm{p},E)}\tag{25}

一方,フォトングリーン関数は,

D_{\mu \nu} &= D^{(0)}_{\mu \nu} + \sum_{\lambda \delta} D^{(0)}_{\mu \lambda} \pi_{\delta \lambda} D_{\delta \nu}\tag{26}

を満たします.ここで \pi_{\delta \lambda}(\bm{k},\omega) は3×3行列の自己エネルギーです.それぞれの項は (\bm{k},\omega) の関数です.しかしながら,一様媒質ではすべての行列量は,

D^{(0)}_{\mu \nu} &= \left( \delta_{\mu \nu} - \dfrac{k_\mu k_\nu}{k^2} \right)D^{(0)} \\D_{\mu \nu} &= \left( \delta_{\mu \nu} - \dfrac{k_\mu k_\nu}{k^2} \right)D \\\pi_{\mu \nu} &= \delta_{\mu \nu} \pi^{(1)} + \dfrac{k_\mu k_\nu}{k^2} \pi^{(2)}\tag{27}

と書けます. D^{(0)},D,\pi^{(1)},\pi^{(2)} はスカラー量です. ここで,行列積部分を抜き出すと,

\sum_{\lambda \delta} &(\delta_{\mu \lambda} - \hat{k}_\mu \hat{k}_\lambda) (\delta_{\delta \lambda} \pi^{(1)} + \hat{k}_\delta \hat{k}_\lambda \pi^{(2)})(\delta_{\delta \nu} - \hat{k}_\delta \hat{k}_\nu) \\&= (\delta_{\mu \nu} - \hat{k}_\mu \hat{k}_\nu)\pi^{(1)}\tag{28}

よって,フォトングリーン関数にはスカラーのダイソン方程式があって,

D &= \dfrac{D^{(0)}}{1-D^{(0)} \pi^{(1)}} \\D &= \dfrac{4 \pi [\delta_{\mu \nu} - k_\mu k_\nu /k^2]}{\omega^2-\omega^2_{\bm{k}}-4 \pi \pi^{(1)}} \tag{29}

つまり,フォトン自己エネルギーでは横成分はその縦成分 \hat{k}_\delta \hat{k}_\lambda \pi^{(2)} には依存しません.実際の媒質では,一様と言うよりは周期的ですがもう少し複雑になります.その時には式 (26) から始めて,実際に成分 D_{\mu \nu} を求めて計算します.

誘電関数が \varepsilon の一様媒質で,式 (8) のベクトルポテンシャルの方を考えます.時間の二階微分が \varepsilon 倍されます.これはグリーン関数に \omega^2 の寄与をするので,正しいグリーン関数は,

D_{\mu \nu} = \dfrac{4 \pi [\delta_{\mu \nu} - k_\mu k_\nu /k^2]}{\varepsilon \omega^2 - \omega_{\bm{k}}^2 + i \delta} \tag{30}

です.これをダイソン方程式に入れて \varepsilon を求めると,

\varepsilon = 1 - \dfrac{4 \pi}{\omega^2}\pi^{(1)}(\bm{k},\omega)\tag{31}

しかし,これが何らかの結晶だと誘電率はテンソルになり,この議論は成立しません. 結晶中では,

\lim_{\bm{k} \to \bm{0}} \varepsilon_{\mu \nu}(\bm{k},\omega) \to \delta_{\mu \nu} \left[ 1 - \dfrac{4 \pi}{\omega^2} \pi^{(1)} (\bm{k},\omega) \right]\tag{32}

となります.

おまけ

縦とか横とかよく分からなかった方の為に補足しておきます.

ダイアド積,もしくは行列 k_\mu k_\nu /k^2 は任意のベクトル V_\nu に作用することで,

\dfrac{k_\mu k_\nu}{k^2} V_{\nu} = (\bm{k}/k \cdot \bm{V}) (\bm{k}/k) = \dfrac{| \bm{k} \rangle \langle \bm{k} |}{k^2}\tag{33}

となります. これは,ベクトル \bm{V} に含まれる \bm{k} 軸方向の成分です.これを縦と呼んでいます. 当然,これを \bm{V} から引いた残りのものは横成分となります.

グリーン関数の解釈

それを踏まえて,グリーン関数 D_{\mu \nu} の意味を考えておきましょう. | \mu \rangle ,| \nu \rangle などは基本ベクトルです.つまり, x,y,z 方向を向いた単位ベクトルです.グリーン関数の定義である式 (13) を再び書いておくと,

D_{\mu \nu}(\bm{k},t-t^\prime) = -i \sum_\lambda \langle | T A_\mu(\bm{k},\lambda,t) A_\nu(-\bm{k},\lambda,t^\prime)  |\rangle\tag{34}

他のグリーン関数とやっていることは基本的には同じです. t>t^\prime として,全ハミルトニアン H の基底状態 t=0t^\prime まで時間発展させ,波数 \bm{k} のフォトンを作り出す,もしくは, -\bm{k} を消す.そこからさらに t まで時間発展させ, | e^{-iH(t-t^\prime)} A_\nu(-\bm{k}) e^{-iH t^\prime} | \rangle となる.もう一方で,同じく基底状態を t まで時間発展させてから 波数 \bm{k} のフォトンを作り出す,もしくは, -\bm{k} を消す.すると, |A_\mu(-\bm{k}) e^{-iHt} | \rangle となる.後者の中にある前者との共通の状態の確率振幅がグリーン関数です. この時,フォトンがベクトルとしての量であるために偏光を持ち,グリーン関数には添え字が付きます.

この「おまけ」の議論から,恒等演算子を \hat{I} とすると,

\hat{I} - \dfrac{| \bm{k} \rangle \langle \bm{k} |}{k^2}\tag{35}

\bm{k} に直交する二次元空間(偏光面)への射影演算子であることが分かります. これを \langle \mu || \nu \rangle で挟みます.すると,

&\langle \mu | \hat{I} - \dfrac{| \bm{k} \rangle \langle \bm{k} |}{k^2} | \nu \rangle \\&= \delta_{\mu \nu} - (k_\mu k_\nu/k^2)\tag{36}

となり,これはまさに D_{\mu \nu}D^{(0)}_{\mu \nu} のテンソル部分です. つまり,スカラーだった時のボゾンのグリーン関数 \dfrac{4 \pi}{\omega^2 - \omega^2_{\bm{k}} + i \delta}|\nu \rangle の方向を持たせ,偏光面に射影する.そして,その射影によって生じる | \mu \rangle の成分量を掛けたものがフォトングリーン関数と言う事になります.

つまり,この式 (36) は何らかの(必ずしも偏光面にはない)ベクトル量 \bm{V} に掛かることを想定していて,まずそのベクトルを | \nu \rangle (\nu = x,y,z) 方向へ分解し,それぞれの x,y,z 成分が偏光する(波数ベクトル方向を除く)ことでどれだけ |\mu \rangle へ寄与するかを表しているのだと思います.

chromel-studyGreen07-01.png

ただし,これは等方媒質中の話です.一般には誘電関数 \varepsilon がテンソル \varepsilon_{\mu \nu} に変わり,それぞれの成分を式 (30) に入れて計算すると言う事のようです.

時間順序が逆の場合は, tt^\prime\mu\nu が入れ替わった状態で同様の確率振幅になっています.その際,ボゾンゆえ符号は変わりません.

これで一連のグリーン関数の記事は終わりです.お疲れ様でした.