この記事では,留数定理をかなり大雑把に,使い道まで解説します.
留数定理は,複素線積分に関する定理です. もし,複素線積分が正則な領域を囲むなら, 積分値はゼロになります.これがコーシーの積分定理です.
ところが,囲む領域の中に正則でない点,例えば のように, 非正則点(これを特異点と言います)があると,一周しても積分値がゼロでないことがあります. だから,何なんだ.と思うでしょうが,これが非常に役に立ちます. 後で説明しますので,お楽しみに.
次の積分を計算しましょう. を でない整数とします. は原点を囲む半径 の円です. とすると, で積分範囲は, です.
ですね.では,これ見よがしに を除外しましたが,この時どうなるか. 次に示します.
これだけ残るのです.しかもこの積分は示しませんが,積分路がこの点 を囲ってさえいれば,いつでも となります.
ここで, をテイラー展開で と展開できますよね. でも,これは の様な関数は展開できません.(この辺はどういう関数ならテイラー展開で良いかはよく知りません.)そこで,テイラー展開の拡張でローラン展開と言うものがあります.例えば,
があげられます.テイラー展開では で割っていましたが,ローラン展開ではしませんね.ここで冪数の最低次の数を極の次数といい,この場合は,2次の極と言います.大抵は 1次の極の計算を知っていれば対処できます.もし,この次数が無限なら,真性特異点と言います.では,この式 を囲った複素線積分(積分路 )はどうなるでしょう. とすれば,これも の寄与のみが残り,
となるのです.
実は,式 の はわざわざ積分しなくても求まります. 式 に をかけてみましょう.
さらに, で微分してみましょう.
そして, を代入すると,
となります.この上式の左辺が留数と呼ばれるものです.
と書きます.
一次の極なら話はもっと簡単で,
なのですから,
となります.どうです?積分がただの掛け算と代入だけで求まってしまいます.
式 と比べて,
が言えます.これは覚えるべき公式です. もし,他の極も囲った中にあるなら,
とすればよいです.これを留数定理と呼びます.
例えば,この積分値が分かるようになると,普通は不定積分が計算できないのに,実関数 の積分 などの定積分が分かるようになります.必ずしも実関数でなくてもよいです.
具体例を挙げてみます. として,
を計算します.それには積分路を図の様に取ります.
この経路 の反時計回り一周分の積分をします.
ここで,円弧 の積分は で消えてしまいます. この辺は詳しく書きません.(cf.フーリエ変換の応用にはジョルダンの補題が役に立ちます)残るのが,
ですね.この の極限を計算します. しかし,我々はこの積分一周の値を留数定理から知っているのです. 図に示した通り,極は より, このかまぼこ型の領域には が含まれています.
これが言えたので,
ややこしいですが,つまりは,
となります. この留数定理は,フーリエ変換やグリーン関数を求める際,強力な道具となります.
今日はここまで,お疲れさまでした.