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留数定理とは

この記事では,留数定理をかなり大雑把に,使い道まで解説します.

基本

留数定理は,複素線積分に関する定理です. もし,複素線積分が正則な領域を囲むなら, 積分値はゼロになります.これがコーシーの積分定理です.

ところが,囲む領域の中に正則でない点,例えば f(z)=\dfrac{1}{z-1} のように, 非正則点(これを特異点と言います)があると,一周しても積分値がゼロでないことがあります. だから,何なんだ.と思うでしょうが,これが非常に役に立ちます. 後で説明しますので,お楽しみに.

発想

次の積分を計算しましょう. n-1 でない整数とします. C_R は原点を囲む半径 R の円です. z = R e^{i \theta} とすると, dz = i R e^{i \theta} d \theta で積分範囲は, \theta : 0 \to 2\pi です.

\int_{C_R} z^n dz &= \int_0^{2 \pi} \left( R^n e^{i n \theta} \right) i R e^{i \theta} d \theta \\&= i \int_0^{2 \pi} R^{n+1} e^{i (n+1) \theta} d \theta \\&= \left[ \dfrac{i}{i(n+1)} R^{n+1} e^{i (n+1) \theta} \right]_0^{2\pi} \\&= \dfrac{1}{(n+1)} R^{n+1} e^{i2 (n+1) \pi} - \dfrac{1}{(n+1)} R^{n+1} e^{0} \\&= 0\tag{1}

ですね.では,これ見よがしに -1 を除外しましたが,この時どうなるか. 次に示します.

\int_{C_R} z^n dz &= \int_0^{2 \pi} \left( R^{-1} e^{- i \theta} \right) i R e^{i \theta} d \theta \\&= i \int_0^{2 \pi} 1 d \theta \\&= i \left[ \theta \right]_0^{2\pi} \\&= 2 \pi i\tag{2}

これだけ残るのです.しかもこの積分は示しませんが,積分路がこの点 z=0 を囲ってさえいれば,いつでも 2 \pi i となります.

ローラン展開

ここで, f(z) をテイラー展開で f(z) = a_0 + \dfrac{a_1}{1!}(x-a) + \dfrac{a_2}{2!}(x-a)^2 + \cdots と展開できますよね. でも,これは 1/z の様な関数は展開できません.(この辺はどういう関数ならテイラー展開で良いかはよく知りません.)そこで,テイラー展開の拡張でローラン展開と言うものがあります.例えば,

f(z) = a_{-2} (z-a)^{-2} + a_{-1} (z-a)^{-1} + a_{0} + a_{1} (z-a)^{1} + a_{2} (z-a)^{2} + \cdots \tag{3}

があげられます.テイラー展開では n! で割っていましたが,ローラン展開ではしませんね.ここで冪数の最低次の数を極の次数といい,この場合は,2次の極と言います.大抵は 1次の極の計算を知っていれば対処できます.もし,この次数が無限なら,真性特異点と言います.では,この式 (3) を囲った複素線積分(積分路 C )はどうなるでしょう. z-a = R e^{i \theta} とすれば,これも n=-1 の寄与のみが残り,

\int_{C} f(z) dz = 2 \pi i a_{-1} \tag{4}

となるのです.

いよいよ留数の登場

実は,式 (3)a_{-1} はわざわざ積分しなくても求まります. 式 (3)(z-a)^2 をかけてみましょう.

(z-a)^2 f(z) = a_{-2} + a_{-1} (z-a)^{1} + a_{0}(z-a)^2 + a_{1} (z-a)^{3} + a_{2} (z-a)^{4} + \cdots \tag{5}

さらに, z で微分してみましょう.

\dfrac{d}{dz} \left( (z-a)^2 f(z) \right)= a_{-1} + 2a_{0}(z-a) + 3a_{1} (z-a)^{2} + 4 a_{2} (z-a)^{3} + \cdots \tag{6}

そして, z=a を代入すると,

\left. \dfrac{d}{dz} \left( (z-a)^2 f(z) \right)\right|_{z=a}= a_{-1} \tag{7}

となります.この上式の左辺が留数と呼ばれるものです.

Res_{z=a} f(z) = \left. \dfrac{d}{dz} \left( (z-a)^2 f(z) \right)\right|_{z=a} \tag{8}

と書きます.

一次の極なら話はもっと簡単で,

f(z) = a_{-1} (z-a)^{-1} + a_0 + a_1 (z-a) + \cdots \tag{9}

なのですから,

Res_{z=a}f(z) = \left. (z-a) f(z) \right|_{z=a} \tag{10}

となります.どうです?積分がただの掛け算と代入だけで求まってしまいます.

(4) と比べて,

\int_{C} f(z) dz = 2 \pi i Res_{z=a} f(z) \tag{11}

が言えます.これは覚えるべき公式です. もし,他の極も囲った中にあるなら,

\int_{C} f(z) dz = 2 \pi i \sum_{i} Res_{z=a_i} f(z) \tag{12}

とすればよいです.これを留数定理と呼びます.

使い道

例えば,この積分値が分かるようになると,普通は不定積分が計算できないのに,実関数 x の積分 \int_{-\infty}^\infty f(x) dx などの定積分が分かるようになります.必ずしも実関数でなくてもよいです.

具体例を挙げてみます. a>0 として,

\int_{-\infty}^\infty \dfrac{dx}{x^2+a^2} \tag{13}

を計算します.それには積分路を図の様に取ります.

chromel-residueTheorem-01.png

この経路 C の反時計回り一周分の積分をします.

\int_{C} f(z) dz &= \int_{C} \dfrac{dz}{z^2+a^2} \\&= \int_{C_R} \dfrac{dz}{z^2+a^2} + \int_{-R}^R \dfrac{dx}{x^2+a^2} \tag{14}

ここで,円弧 C_R の積分は R \to \infty で消えてしまいます. この辺は詳しく書きません.(cf.フーリエ変換の応用にはジョルダンの補題が役に立ちます)残るのが,

\int_{-R}^{R} \dfrac{dx}{x^2+a^2} \tag{15}

ですね.この R \to \infty の極限を計算します. しかし,我々はこの積分一周の値を留数定理から知っているのです. 図に示した通り,極は z^2+a^2 = (z+ia)(z-ia) より, このかまぼこ型の領域には z=ia が含まれています.

\int_{C} \dfrac{dz}{z^2+a^2} &= 2 \pi i Res_{z = ia} f(z) \\&= 2 \pi i \left[ (z-ia)\dfrac{1}{(z-ia)(z+ia)} \right]_{z=ia} \\&= 2 \pi i \left[ \dfrac{1}{z+ia} \right]_{z=ia} \\&= 2 \pi i \dfrac{1}{2ia} \\&= \dfrac{\pi}{a}\tag{16}

これが言えたので,

\lim_{R \to \infty} \int_{C} f(z) dz &= \lim_{R \to \infty} \int_{C} \dfrac{dz}{z^2+a^2} \\&=\lim_{R \to \infty} \int_{C_R} \dfrac{dz}{z^2+a^2} + \lim_{R \to \infty} \int_{-R}^R \dfrac{dx}{x^2+a^2} \\&= 0 + \int_{-\infty}^\infty \dfrac{dx}{x^2+a^2} \\&= \dfrac{\pi}{a} \tag{17}

ややこしいですが,つまりは,

\int_{-\infty}^\infty \dfrac{dx}{x^2+a^2} = \dfrac{\pi}{a} \tag{18}

となります. この留数定理は,フーリエ変換やグリーン関数を求める際,強力な道具となります.

今日はここまで,お疲れさまでした.