この記事は現在、プロジェクトメンバーによる査読中のものです。草稿段階ですので、内容・表現の正確さについて責任を負いかねます。 リンクを正しく張れていないところが存在しますのでご注意ください。 正式公開まで、いましばらくお待ちください。
コーシー列と完備の概念

点列 a_{n} で, n が大きくなればなるほど点の間隔が狭くなっていくものを コーシー列 もしくは 基本列 と呼びます.直観的なイメージとしては,次のような点列でしょうか.

Joh-CauchySequence01.gif

きちんと定義すると,次のように書けるでしょう.

definition

【コーシー列】 \forall \varepsilon , \exists N \ s.t. \ \forall m,n; m,n \ge N \Longrightarrow |a_{m}-a_{n}| < \varepsilon

[*]もう少し乱暴に \lim \limits _{m,n \rightarrow \infty}|a_{m}-a_{n}|=0 を定義として覚えておいてもいいです.

点が収束するというのは,直観的には点列が一点に近づいていくことですから,収束する点列はコーシー列なのではないかという気がします.基本列という名前も,もっともだという気がすることでしょう.『どんどん間隔が狭くなる』ことが,収束するための基本です.実際に,次の定理が成り立ちます.点列の収束という問題を考えるときに,とても重要な基本的な定理です.

theorem

全ての収束する点列は,コーシー列です.

proof

点列 a_{n}a に収束するとします.このとき任意の \varepsilon に対して, n \ge N ならば |a_{n}-a|<\frac{\varepsilon }{2} とできる N が存在するはずです.そこで m,n > N に対し, |a_{m}-a|<\frac{\varepsilon }{2}|a_{n}-a|<\frac{\varepsilon }{2} がそれぞれ成り立つと言えますので,三角不等式を用いて |a_{m}-a_{n}|=|a_{m}-a+a_{n}| \le |a_{m}-a|+|a_{n}-a|< \frac{\varepsilon }{2} + \frac{\varepsilon }{2} = \varepsilon が言えます.これより a_{n} はコーシー列となります.■

このようにコーシー列であることは収束するための 必要条件 ですが, 十分条件ではありません .コーシー列であるのに発散する例としては,区間 (0,1) で定義される \{ \frac{1}{2}, \frac{1}{3},\frac{1}{4},...\} を考えれば十分でしょう.確かに全ての \frac{1}{n}(0,1) に入っていますが,この点列の極限は \frac{1}{n}\rightarrow 0 で, 0(0,1) に入っていません.(このように,簡単に作れる反例は,開区間で定義された点列で,その極限点が上界や下界そのものになる例です.)

[†]上の証明で,最初に \frac{\varepsilon}{2} が出てきた時点で,どうもこの天下り的な置き方がトリッキーで気に入らないと思った人がいるかも知れません.ε-δ論法は大学初年級の解析学で出てくると思いますが,その証明で \frac{\varepsilon}{2} を使うような問題に,解答を見て憤懣を感じる人が多いようです.別に何のことはない,まずは \varepsilon と置いて証明してみると,最後が 2\varepsilon になってしまって格好悪いので,解答を考えた人は後から係数を微調整して {\varepsilon \over 2} としただけなのだと思います.美しい解答を書くまでには,色々な四苦八苦があるものです.

また,当たり前ですが,次の定理も重要です.点列 a_{n} が有界とは,任意の a_{n} に対し, a_{n}<M(< \infty) (上に有界)もしくは (-\infty <)M< a_{n} (下に有界)と書けることを言います.

theorem

コーシー列は有界です.

proof

コーシー列なので, m,n>N に対して |a_{m}-a_{n}|<1 を満たすように N を決めることが出来ます.これより a_{m}<1+a_{n} とできますが, M=\max \{ a_{1},a_{2},...,a_{n-1},a_{n}+1 \} と置けば,常に a_{m}<M が言えます.( \{ a_{1},a_{2},...,a_{n-1},a_{n}+1 \} は有限集合なので M< \infty が決まります.) m は任意なので,コーシー列は上に有界だと言えます.同様にして下に有界なことも示せます.■

コーシー列であることは有界であることの十分条件ですが,必要条件ではありません.つまり,有界であっても,コーシー列ではないものが存在します.これは,ある区間の間をずっと行ったり来たり振動する点列の動きを想像すれば,明らかでしょう.

完備の概念

今後,非常に大事になってくる概念に 完備 (complete) というものがあります.

definition

距離空間 X で, X に含まれる全てのコーシー列が X 内に極限点を持つ場合, X を完備と呼びます.

[‡]ここで距離空間という言葉が出てきましたが,コーシー列の『どんどん間隔が狭くなる』ことを正確に表現するには,『間隔』(つまり距離)を定義されていなければなりません.抽象的・一般的な距離の定義は,距離空間の章で考えます.当面は,実数だけで考えてますので『距離 = 数直線上の長さ』と考えておいて良いでしょう.

完備の概念は今後,関数の解析性を議論するのにとても重要な概念ですが,これだけで何か面白いというようなものでもありません.今は,何だか何の役に立つのかよく分からず定義されたという感じだと思いますが,そのうち慣れてくると思います.

例1

実数全体 \Bbb R に普通の距離を考えた空間は完備です.(実数列の極限が複素数になるようなことはありません.)同様に,ユークリッド空間 \Bbb {R}^{n} も完備です.

例2

有理数に普通の距離を考えた空間は完備ではありません.例えば x_{n+1}=\frac{1}{2}x_{n}+\frac{1}{x_{n}} で与えられる点列を考えると,極限点は x^{2}=2 で表されるはずですが, \sqrt{2} は有理数ではないからです.

例3

開集合も完備にはなりません.例えば (0,1) を考えるとき, 1,\frac{1}{2},\frac{1}{3},\frac{1}{4},... で表される点列は明らかに 0 に収束しますが, 0(0,1) に含まれないからです.

練習問題1

点列 a_{n},b_{n} がともに収束列で,極限値 a,b を持つとき, a_{n}+b_{n} も収束列であることを示して下さい.

練習問題2

点列 a_{n},b_{n} がともにコーシー列であるとき, a_{n}+b_{n} もコーシー列であることを示して下さい.