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任意の方向を向いた3/2スピンの固有状態

この記事では,スピン3/2粒子の固有状態を求めます.

スピン演算子

角運動量演算子 J の良く知られた関係

\bm{J}^2 |J,M \rangle &= \hbar^2J(J+1) |J,M \rangle \tag{1} \\J_z |J,M \rangle &= \hbar M |J,M \rangle \tag{2} \\J_+ |J,M \rangle &= \hbar \sqrt{(J-M)(J+M+1)} |J,M+1 \rangle \tag{3} \\J_- |J,M \rangle &= \hbar \sqrt{(J+M)(J-M+1)} |J,M-1 \rangle \tag{4}

となります.この式の導出には,例えば,下記の小出昭一郎先生の本を参照してください.

これを J=3/2 として行列で書くと,

\bm{J}^2 = \hbar^2 \begin{pmatrix} \dfrac{15}{4} & 0 & 0 & 0 \\0 & \dfrac{15}{4} & 0 & 0 \\0 & 0 & \dfrac{15}{4} & 0 \\0 & 0 & 0 & \dfrac{15}{4}\end{pmatrix} \tag{5} J_z = \dfrac{\hbar}{2} \begin{pmatrix} 3 & 0 & 0 & 0 \\0 & 1 & 0 & 0 \\0 & 0 & -1 & 0 \\0 & 0 & 0 & -3\end{pmatrix} \tag{6} J_+ = \hbar \begin{pmatrix} 0 & \sqrt{3} & 0 & 0 \\0 & 0 & 2 & 0 \\0 & 0 & 0 & \sqrt{3} \\0 & 0 & 0 & 0\end{pmatrix} \tag{7} J_- = \hbar \begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 & 0 \\\sqrt{3} & 0 & 0 & 0 \\0 & 2 & 0 & 0 \\0 & 0 & \sqrt{3} & 0\end{pmatrix} \tag{8}

となります.ここで, J_+ = J_x + i J_y , J_- = J_x - i J_y の関係から,

J_x = \dfrac{\hbar}{2} \begin{pmatrix} 0 & \sqrt{3} & 0 & 0 \\\sqrt{3} & 0 & 2 & 0 \\0 & 2 & 0 & \sqrt{3} \\0 & 0 & \sqrt{3} & 0\end{pmatrix} \tag{9} J_y = \dfrac{\hbar}{2} \begin{pmatrix} 0 & -\sqrt{3}i & 0 & 0 \\\sqrt{3}i & 0 & -2i & 0 \\0 & 2i & 0 & -\sqrt{3}i \\0 & 0 & \sqrt{3}i & 0\end{pmatrix} \tag{10}

です.任意の方向 (\theta,\phi) を向いたスピノールは,

J_{arb} = \sin \theta \cos \phi J_x + \sin \theta \sin \phi J_y + \cos \theta J_z \tag{11}

として, 4 \times 4 行列の固有値問題

J_{arb} \chi = \lambda \chi \tag{12}

を満たすスピノールの事になります. この固有値 \lambda を求めるのに, \lambda -I J_{arb} の行列式を求めることは必要ありません. 固有値は任意の方向を向いていても,対称性が同じなので

\mathrm{det}(\lambda I - J_z)  = (\lambda - \dfrac{3}{2}\hbar)(\lambda - \dfrac{1}{2}\hbar)(\lambda + \dfrac{1}{2}\hbar)(\lambda + \dfrac{3}{2}\hbar) \tag{13}

より,

\lambda = \dfrac{3}{2}\hbar , \dfrac{1}{2}\hbar ,- \dfrac{1}{2}\hbar ,- \dfrac{3}{2}\hbar \tag{14}

と分かります.

固有値問題を解く

さて, J_{arb} \chi = \lambda \chi を書いておきましょう.

\dfrac{\hbar}{2} \begin{pmatrix} 3 \cos \theta & \sqrt{3} \sin \theta e^{-i \phi} & 0 & 0 \\\sqrt{3} \sin \theta e^{i \phi} & \cos \theta & 2 \sin \theta e^{-i \phi} & 0 \\0 & 2 \sin \theta e^{i \phi} & - \cos \theta & \sqrt{3} \sin \theta e^{-i \phi} \\0 & 0 & \sqrt{3} \sin \theta e^{i \phi} & -3  \cos \theta\end{pmatrix}\begin{pmatrix} \alpha \\\beta \\\gamma \\\delta\end{pmatrix}=\lambda\begin{pmatrix} \alpha \\\beta \\\gamma \\\delta\end{pmatrix} \tag{15}

一般に固有値問題は根底にあるのは連立一次方程式なので,解けないことはありませんが, 美しい対称性を持った形を求めるのは,何らかの工夫がいります. 第一成分 \alpha の決定でその後の値が決まるのです.

今回のキーとなるのは,あまり論理的ではないのですが, 3つのスピン 1/2 粒子のスピンの合成では,テンソル積が 出てきて,それは 2^3 この成分を持つものの第一成分は \cos^3 \dfrac{\theta}{2} e^{-i \dfrac{3}{2}\phi} を持っているという知識でした.なお,そのスピン1/2のスピノールは,

\begin{pmatrix}\cos \dfrac{\theta}{2} e^{-i(1/2)\phi} \\\sin \dfrac{\theta}{2} e^{i(1/2)\phi}\end{pmatrix}

\begin{pmatrix}- \sin \dfrac{\theta}{2} e^{-i(1/2)\phi} \\\cos \dfrac{\theta}{2} e^{i(1/2)\phi}\end{pmatrix}

です.(拙記事 任意の方向を向いたスピンのxyz方向固有状態での展開 及び 交換相互作用と任意の方向を向いた二電子スピン 参照)

すると, \lambda = \dfrac{3}{2}\hbar に対して,この第一成分は確かに良い対称性を持っており,

\chi_{3/2} =\begin{pmatrix}\cos^3 \dfrac{\theta}{2} e^{-i(3/2)\phi} \\\sqrt{3} \cos^2 \dfrac{\theta}{2} \sin \dfrac{\theta}{2} e^{-i(1/2)\phi} \\\sqrt{3} \cos \dfrac{\theta}{2} \sin^2 \dfrac{\theta}{2} e^{i(1/2)\phi} \\\sin^3 \dfrac{\theta}{2} e^{i(3/2)\phi} \end{pmatrix} \tag{16}

が求まりました.これはスピン 3/2 の粒子が \bm{n} = (\sin \theta \cos \phi, \sin \theta \sin \phi, \cos \theta) 方向に対して,その方向の成分が 3/2 \hbar である解を表しています.

同様に 1/2 \hbar- 3/2 \hbar の解は,

\chi_{1/2} =\begin{pmatrix}\cos^2 \dfrac{\theta}{2} \sin \dfrac{\theta}{2} e^{-i(3/2)\phi} \\\left( \sqrt{3} \cos \dfrac{\theta}{2} \sin^2 \dfrac{\theta}{2} - \dfrac{1}{\sqrt{3}} \cos \dfrac{\theta}{2} \right) e^{-i(1/2)\phi} \\\left( -\sqrt{3} \cos^2 \dfrac{\theta}{2} \sin \dfrac{\theta}{2} + \dfrac{1}{\sqrt{3}} \sin \dfrac{\theta}{2} \right) e^{i(1/2)\phi} \\-\cos \dfrac{\theta}{2} \sin^2 \dfrac{\theta}{2} e^{i(3/2)\phi} \end{pmatrix} \tag{17} \chi_{-1/2} =\begin{pmatrix}\cos \dfrac{\theta}{2} \sin^2 \dfrac{\theta}{2} e^{-i(3/2)\phi} \\\left( -\sqrt{3} \cos^2 \dfrac{\theta}{2} \sin \dfrac{\theta}{2} + \dfrac{1}{\sqrt{3}} \sin \dfrac{\theta}{2} \right) e^{-i(1/2)\phi} \\\left( -\sqrt{3} \cos \dfrac{\theta}{2} \sin^2 \dfrac{\theta}{2} + \dfrac{1}{\sqrt{3}} \cos \dfrac{\theta}{2} \right) e^{i(1/2)\phi} \\\cos^2 \dfrac{\theta}{2} \sin \dfrac{\theta}{2} e^{i(3/2)\phi} \end{pmatrix} \tag{18} \chi_{-3/2} =\begin{pmatrix}\sin^3 \dfrac{\theta}{2} e^{-i(3/2)\phi} \\-\sqrt{3} \cos \dfrac{\theta}{2} \sin^2 \dfrac{\theta}{2} e^{-i(1/2)\phi} \\\sqrt{3} \cos^2 \dfrac{\theta}{2} \sin \dfrac{\theta}{2} e^{i(1/2)\phi} \\-\cos^3 \dfrac{\theta}{2} e^{i(3/2)\phi} \end{pmatrix} \tag{19}

となります.この固有ベクトルと J_{arb} の積を計算してみて,確かに固有ベクトルであることを確認すると良いでしょう.興味深いのは,これらのスピノールは \phi = 2 \pi の回転を行っても 1/2 スピノールと同様に符号が反転し,スピンの二価性が容易に見て取れるところです.それでは今日はここまで,お疲れさまでした.