オランダの数学者スネルは,1600年代初め,現在「屈折の法則」または「スネルの法則」と呼ばれている 法則を発見しました.「光(波)が屈折する」とは,光(波)がある物質から別の物質へ入る時,その境界のところで 進行方向を変える現象をいいます. スネル自身はこの発見を公表しませんでした. しかし,後にオランダの物理学者ホイヘンスによって,この法則の重要性が説かれました.
光の屈折という現象は身近に見られます.コップに水を入れて,その中にストローを斜めに入れてみると, ストローがちょうど水面のところで折れ曲がったように見えます. ストローは実際には折れ曲がっていないのに,折れ曲がって見える,これは光が屈折しているからなのです.
下の写真は,1枚目がビーカーに温度計を入れたもの,2枚目が水の入ったビーカーに温度計を入れたものです. 比較してみると,違いがよく分かりますね.
では,なぜ光(波)は屈折するのでしょうか.法則の内容を具体的にみていきましょう.(これ以降,「(波)」は省略します.) 光が空気中から水中へ,斜めに入っていく場合を考えます.以下の図は, 平面波(波面が平面で,波面に垂直な方向に伝播する波)が入ってくる様子を示しています.
波面が に来るまでは,光は曲がることなく進んできます.では,点 を通る波面はどのようになるでしょうか.
空気中と水中では,光の進む速さが異なります.それぞれの速さを, , としておきます( であることが知られています). もともと にいた波面が, 秒後にどうなっているかを考えてみましょう. から までは そのまままっすぐ,距離 だけ進んでいくことになりますね.点 から出た波は, 秒の間に距離 だけ進みますが,どちらの方向に進むか分かりません. 点 を中心とした半径 の半円のどこかにいることになりますから,その半円を図示しておきます.
平面波は,波面に垂直な方向へ伝播しますので,点 から半円に引いた接線が,新しい波面 となることが分かります (中心から円周上のある点を結ぶ線分と,その点に接する接線は垂直に交わりますね).
あとはそのまままっすぐ進んでいきます.
この図を見てみると,なるほど光は曲がって進んでいくことが分かります.
では,どれくらい曲がるものなのかをみていくことにしましょう.
上の図で, で示した角度を「入射角」, で示した角度を「屈折角」と呼びます. と の関係を調べれば,どれくらい曲がっているかが分かります.
まず,
が成り立ちます.また, と がそれぞれ直角三角形であることから,
であることが分かります.さらに,
より,
となります.ここで,光の振動数を ,空気中における波長を ,水中における波長を とすると,
と求まります.
前のセクションで,入射角 (の正弦)と反射角 (の正弦)の比は,空気中,水中それぞれにおける光の進む速さの比で決まることが分かりました. この比
を,空気に対する水の「相対屈折率」と呼び, と表します.
真空に対するある物質の相対屈折率を,その物質の「絶対屈折率」または(単に)「屈折率」と呼びます. 空気の屈折率を ,水の屈折率を とすると,真空における光の速さを として,
より,
となります.