この記事は現在、プロジェクトメンバーによる査読中のものです。草稿段階ですので、内容・表現の正確さについて責任を負いかねます。 リンクを正しく張れていないところが存在しますのでご注意ください。 正式公開まで、いましばらくお待ちください。
rotgrad=0, divrot=0

ベクトル演算子の重要な関係式に, \nabla \times\nabla \cdot を重ねたら,必ず零になるというものがあります.

{\rm rotgrad}\phi = \nabla \times  (\nabla \phi) = \bm{0}      \tag{1} {\rm divrot}\bm{A} = \nabla \cdot (\nabla \times \bm{A}) =0    \tag{2}

これは,任意の関数 \phi\bm{A} に対して成り立つ非常に重要な関係式で,この後,電磁場のポテンシャル論など,ポテンシャル関数を利用する場面でよく使われるものなので,よく覚えておいて下さい.

演習問題

(1)(2) で, \phi は任意のスカラー関数, \bm{A} は任意のベクトル値関数とします.実際に成分計算することで,式 (1)(2) を証明して下さい.

rotgrad=0のイメージ

(1)(2) の意味する物理的状況をイメージしておくのを悪くないと思いますので,直観的に考えてみます.まず,式 (1)\nabla \phi という流れ場を \bm{V} と置いてみます. xy 平面上で,例えば V_{y}x 方向に変化するなら( \frac{\partial V_{y}}{\partial x} \ne 0 なら),次図のように xy 平面に浮かべた物体はクルクル回り,回転があることになります.(変化率 const.>0 としたのが図の様子です.)

Joh-RotGrad01.gif

これは V_{y} の流れです.ところが, \frac{\partial V_{y}}{\partial x} =\frac{\partial^2 \phi}{\partial xy}= \frac{\partial^2 \phi}{\partial yx} =\frac{\partial V_{x}}{\partial y} が成り立ちますので, V_{x} は, V_{y} の向きを右向きに変えただけのものになることが分かります.

Joh-RotGrad02.gif

上の二つの絵を見比べてください. V_{x}V_{y} は,軸方向への変化率が全く同じですから,回転の大きさ(浮かべたものを回そうとする力)は同じです.そして,その回転の向きが逆になっていますから,ちょうど互いに回転を相殺してしまう形になっているのです. xz 平面, yz 平面も同様ですから, \bm{V}=\nabla \phi は,どこにも回転の無い流れ場になります.

Joh-RotGrad03.gif

結局,どこにも回転はない.

これが, {\rm rotograd}=0 という式のイメージです.結局は,式で言っていることをバラして絵にしただけなのですが,直観的に納得できれば良いと思います.

divrot=0のイメージ

(2) の方の直観的イメージはどうなるでしょうか.まず \bm{V}=\nabla \times \bm{A} と置き,流れの中に置いた xyz 座標に沿った微小直方体領域で考えます.下図で手前に見えている面 S_{1} 上の流れを考えてみましょう.(これを, \bm{V}_{S_{1}} と略記します.)

Joh-DivRot01.gif

ベクトル \bm{V}_{S_{1}} は,図に書いたように \bm{A} が反時計回りに回転を持つときに手前方向を向くベクトルとして定義されます.一方,この面とちょうど反対側(箱の裏側)の面 S_{2} 上の流れ \bm{V}_{S_{2}} はどのようなベクトルになるでしょうか?この直方体が非常に小さいとすれば, S_{1}S_{2} はたいして離れていませんので, S_{2} 上の流れは S_{1} 上の流れと『ほとんど同じ』です.ほとんど向きが同じということは,この直方体領域に立った視点からは,『直方体から出て行く向きか,直方体に向かってくる向きか』が逆になります.(先ほど \bm{V}_{S_{1}} を,直方体から出て行く向きだと考えましたので, \bm{V}_{S_{2}} は直方体に入ってくる向きになるということです.)

Joh-DivRot02.gif

そして, S_{1}S_{2} の間隔を,極限を取って \rightarrow 0 とすれば,完全に \bm{V}_{S_{1}}-\bm{V}_{S_{2}}=\bm{0} となります.

[*]要するに,右巻きのものも,反対側から見たら左巻きだってことです.

直方体の他の向きの面でも同じ議論が成り立ちますので,結局,どの向きも表裏表裏で相殺して,直方体表面全体で考えれば,回転はなくなりなす.(直方体の法線は,どの面においても,直方体の外に向く方向を正としているからです.)式で書けば,次式が成り立つということになります.

\int \int \limits _{S} \bm{V}\cdot d\bm{S} = \int \int \limits _{S} (\nabla \times \bm{A} )\cdot d\bm{S} = 0

右辺とガウスの定理より, \nabla \cdot (\nabla \times \bm{A})={\rm divrot}\bm{A}=0 を得ます. {\rm divrot=0} という式の,直観的理解は得られましたか?

発展:微分形式

(1)(2) は,微分形式の理論では ポアンカレの補題 とよばれる定理の表現になっています. n 次微分形式を \omega とし,これに対し n+1 次微分形式を d\omega と表わすことにします.(つまり, d は外微分の演算を表わしています.)このとき,どんな次数の微分形式に対しても次式が成り立つというのが ポアンカレの補題 です.

dd\omega =0

つまり,二回連続で外微分を取ったら,絶対 0 になるということです.微分形式とか外微分という言葉を初めて聞いたという人は,何のことか分からないと思いますが,気が向いたら 微分形式 を勉強してみて下さい.いますぐ勉強する予定が無い人も,『なんだかベクトル解析の先には,綺麗な理論がありそうだなぁ』と思って楽しみにしていて下さい.