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ガロア拡大とガロア群

この記事と次の ガロア群の例 では, 体の自己同型写像 で勉強したガロア拡大とガロア群について,もう少し理解を深めることを目的とします.目新しい概念は出てきませんが,役に立つ定理を幾つか考えます.また,ここまでに既習の事柄も,このあたりで一度頭の整理をしてみて下さい.

ガロア群

ガロア群の元を求める際に,次の定理が便利です.

Important

\zeta1 の素数乗根 e^{\frac{a\pi i}{p}} ( p は素数)とします.有理数体 Q\zeta を添加してできる拡大体 Q(\zeta ) に対し,ガロア群は整数の剰余群と同型となり, \cal G \it (Q(\zeta)/Q) \sim Z_{p} がなりたちます

proof

いま p は素数としていますので,剰余群 Z_{p}p 次の巡回群 \{ [0],[1],...,[p-1]\} になります. x^{p}-1=(x-1)(x^{p-1}+x^{p-2}+...+1)=0 を考えると, \zetax^{p-1}+x^{p-2}+...+1=0 の解ですが,この方程式は Q 上既約で, Q 上には解を持たず,体 Q(\zeta )x^{p-1}+x^{p-2}+...+1=0 の最小分解体 Q(x_{1},x_{2},...,x_{p-1}) になっており,拡大次数は p です.よって定理が成り立ちます.■

例1

有理数体 Q に, x^{5}-1=0 の解の一つである \zeta = e^{\frac{2\pi i}{5}} を添加して作った拡大体 Q(\zeta ) はガロア拡大になっています. Q(\zeta ) の元は a+b\zeta + c{\zeta}^{2}+ d{\zeta}^{3}+e{\zeta}^{4} \ (a,b,c,d,e \in Q) の形をしており,拡大次数は 5 です.一方,ガロア群 \cal G \it (Q(\zeta )/Q) は, Z_{5} に同型ですので位数は 5 です.よって, Q(\zeta )Q のガロア拡大になっています.

[*]前定理より,拡大次数が 2,3,5,7,11,... の代数的拡大体は,全てガロア拡大だと言えます.

ガロア拡大とガロア群に関しては,体の拡大次数が,ガロア群の位数で表されてしまうわけです.とても美しい関係です.

ガロア拡大の別の定義

ここまでに,ガロア拡大とは『 F の拡大体 E が, EF 上自己同型写像群 \cal G \it (E/F)E を固定体とし, [F:E]=|\cal G \it (E/F)| の場合』と定義しました.この定義は分かりやすいものですが,全く同値な定義に言い換えることも出来ます.

【ガロア拡大の定義】

  1. [E:F]=|\cal G \it (E/F)|
  2. EF の有限次分離正規拡大体です.
  3. E は, F 上のある分離多項式 f(x) の最小分解体になっています.

これらが同値な条件であることは,以下に証明します.場合に応じて,分かりやすい定義を使えば良いと思います.二番目の定義を最初に挙げる教科書が多いようです. (2. \rightarrow 3.) の証明は 体の元の共役と正規拡大体 で示してありますので,ここでは (1. \rightarrow 2.) の証明を示します.

proof

( 1.2. ) E の任意の元 \alpha に対し, \alpha の最小多項式が重解を持たず,かつ E 上で一次式の積に分解できることを示せばよいわけです. \cal G \it (E/F) は有限群ですので, \cal G \it (E/F) の元の中で相異なるものを集めた集合 \{ {\tau}_{1},{\tau}_{2},...,{\tau}_{n} \} を考えます (n \le |\cal G \it (E/F)|)E の任意の元 \alpha にたいし,この集合の元による写像を {\tau}_{i}(\alpha) と書き,多項式 f(x)=(x-{\tau}_{1}(\alpha ))(x-{\tau}_{2}(\alpha ))\cdot \cdot \cdot (x-{\tau}_{n}(\alpha )) を考えます.まず各 {\tau}_{i} は全て異なるので, f(x) は重解を持ちません.また, f(x) を展開した際の係数は全て {\tau}_{i}(\alpha ) \ (i=1,2,...,n) の和と積で表現されますが,これらは固定体 F の元になっているはずです.これより, \alphaF 上の最小多項式 q(x) ( q(x)=x-\alpha とは限りません)は f(x) を割るので, q(x) は重解を持ちません.よって q(x)E 上一次式の積に分解できます.これより, EF の分離正規拡大体になっています.■

ガロア拡大の表現には,他にも色々なものがあり,教科書によって取り上げ方が様々だと思います.例えば,次の二つの条件が成り立つことも, EF のガロア拡大であることと同値であることを示すことが出来ます.

【補足】

  1. F 上既約な m 次方程式 g が,もし一つでも E 上に解を持てば, g は結局 m 個の解を E 上に持ちます.
  2. EF の代数的単純拡大体として表現できます.(つまり, F 上にある代数的元 \theta があって, E=F(\theta ) と書けるということ.)

後で使う都合上, 1. だけ,簡単に証明しておきます.あまり,証明の細かいところにはまらずに,結果だけ了承して先に進んでも良いと思います.

proof

まず必要条件を証明します. EF のガロア拡大だとすれば,ガロア群を \cal G \it (E/F)=\{ \phi _{1},\phi_{2},..,\phi_{n} \} のように決めることができ, \alpha \in E に対し \phi _{1}\alpha , \phi_{2}\alpha ,...,\phi _{n}\alpha \in E が言えます.これらの中から, r \ (>m) 個を選んで,多項式 g(x)=(x-\alpha _{1})(x-\alpha _{2})\cdots (x-\alpha _{r} ) を作ると, g の係数は \cal G \it (E/F) によって動かされませんから(ガロア群の元は \alpha _{i} を置換するだけなので), gF 上の多項式だいうことが出来ます.ここで \alpha を解とする F 上既約な多項式 f を考えると( m 次多項式とします), g(\alpha )=0 より, fg を割るはずですが, g の最小分解体が E なので, f の最小分解体も E になり,既約という仮定より, f の解は全て異なるはずです.■

proof

次に十分条件を示します. E=F(\theta ) と書け, [E:F]=n とします.いま, \theta の最小分解多項式は n 個の解持つはずですので,それを \theta _{i} \ (i=1,2,...,n) とすると,拡大体 F(\theta _{i}) \subset E は,全てのの i に対して [F(\theta _{i}):F]=n を満たし,結局 F(\theta _{i}) =E が言えます.ここで,写像 \phi _{i} \ (i=1,2,...,n)\phi _{i} (\theta _{1}) =\theta _{i} と定義すると, \{ 1, \phi_{1},\phi_{2},...,\phi_{n-1}\}EF 上のベクトル空間とみたときの基底になっており, F 上の多項式 g に対して \phi _{i} g(\theta _{1}) = g(\theta _{i}) が成り立ちます.これより, \phi_{i}F を固定体とする E の自己同型写像だということが出来て, EF のガロア拡大だと言えます.■

例2

Q(\root 3\of {2})Q のガロア拡大ではありません. Q(\root 3\of {2}) の任意の元は a+b\root 3\of {2} +c\root 3\of {2^{2}} の形に書けますが, \root 3\of {2} の共役元である \root 3\of {2}\omega , \root 3\of {2} {\omega}^{2} ( \omega1 の三乗根で \omega = \frac{1+i\sqrt{3}}{2} とします)を含まないため,正規拡大にはなっていないからです.

アーベル拡大体と巡回拡大体

特に,ガロア群が可換群である場合のガロア拡大体を アーベル拡大体 ,ガロア群が巡回群である場合のガロア拡大体を 巡回拡大体 と呼びます.