ベクトルとは,直交変換に際して次のような変換則に従う量と定義されました.
これとそっくりな, 擬ベクトル という量が 反対称テンソルと軸性ベクトル に出てきました.
違いは, という記号があるかないかですが,擬ベクトルは,右手系と左手系が入れ替わるような座標変換に対しては,その符号を入れ替わるのでした.(擬ベクトルを,軸性ベクトルとも呼びます.)擬テンソルのこの性質を高階のテンソルにまで一般化し,やはり右手系・左手系の交換に伴って符号を変えるような量を, 擬テンソル と呼びます.擬テンソルの一般的な定義は,この座標変換を表わす行列の行列式
を用いて,次のように定式化します.
この が,
になることを次のセクションで確認します.
まずはベクトルの変換から考えます.直交座標系で考え,座標変換前の基底ベクトル ,変換後の基底ベクトルを
とします.直交座標系で考えているので,基底については次の関係式がなりたちます.
また,新旧の座標系の間には,次図のような関係があります.図中 は旧座標系の原点,
は新座標系の原点とします.
このとき次の関係式が分かるでしょう.
これより, として,成分に関して次式がなりたちます.ダッシュのつく位置に気をつけてください.両辺とも,縮約により
について和を取る形になっています.
式 の両辺に
を,式
の両辺に
を作用させて内積を取ると,基底の直交関係より,次式を得ます.
次に,式 中の内積部分を,上手くテンソルの形に直すことを考えます.基底の変換則
の両辺と
の内積を取ることで,式
中の内積部分
を次のように表わせるでしょう.
同様に, となります.一方,
の両辺と
の内積を取ると次式を得ます.
導出が長くなりましたが,式 が求めていた式です.テンソルの関係式
を行列の形に書き換え,両辺の行列式を取ります.
クロネッカーのデルタの行列式は添字に関わらず です.また,
と
の行列式は同じはずですから,左辺は
だと考えても良く,結局次式を得ます.
式 は次のように書けます.
式 もしくは式
を擬テンソルの定義式とします.符号は,右手系と左手系が入れ替わる座標変換においては
,右手系と左手系が入れかわらない座標変換においては
に取ります.