この記事は現在、プロジェクトメンバーによる査読中のものです。草稿段階ですので、内容・表現の正確さについて責任を負いかねます。 リンクを正しく張れていないところが存在しますのでご注意ください。 正式公開まで、いましばらくお待ちください。
複素数と図形2

この記事では,平面図形を複素数で表わすことを考えます.共役や絶対値の記号を利用し,図形の方程式を綺麗に表現することができます.以下,断りのない限り小文字の a,b,c,... は実定数,ギリシャ文字 \alpha, \beta, \gamma ,... は複素定数を表わすものとします.複素変数は主に z で表わします.

原点を中心とした円は『原点からの距離が一定である』という条件によって表わせます.

|z|=r  \tag{1}

これより,複素平面上,一般に z_{0} 中心とする半径 r の円は次式のように書けるでしょう.

|z-z_{0}|=r    \ &\Longrightarrow \ (z-z_{0})\overline{(z-z_{0})}=r^{2} \\&\Longleftrightarrow \ (z-z_{0})(\bar{z}-\bar{z_{0}})=r^{2} \\&\Longleftrightarrow \ z\bar{z} -\bar{z_{0}}z-z_{0}\bar{z}+|z_{0}|^{2}-r^{2}=0  \tag{2}
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(1) を円の方程式としても良いですし,式 (2) の係数を整理して次のように書き直しても良いでしょう.

a z\bar{z}+\bar{\beta }z+\beta \bar{z}+c=0     \tag{3}

ただし式 (3) の表現を再び式 (1) の形にまとめると \Big| z+\frac{\beta}{a}\Big| = \frac{|\beta|^{2}-ac}{a^{2}} となりますから,係数に関しては \sqrt{|\beta|^{2}-ac}>0 が必要条件となります.

また a=0 \ (b \ne 0) の場合, \bar{\beta}z+\beta \bar{z}+c=0\frac{z}{\beta }+\frac{\bar{z}}{\bar{\beta }}=-\frac{c}{|\beta |^{2}} と書き換えられますが,これは次節で取り上げる直線の方程式になります.ですから,円の場合には a \ne 0 も必要です.式 (3) よりも式 (1) の方が図形的意味が明らかですから,自分で円を表現するときにわざわざ式 (3) を使わなくても良いでしょう.むしろ,式 (3) を見たときに円だと気づくように慣れておくことが大切です.

[*]半径の条件 \sqrt{|\beta |^{2}-ac}>0 は,二次方程式 ax^{2}+bx+c=0 の判別式に似ていると思いませんか?そういえば式 (3) も, z=\bar{z}\equiv x (つまり複素数を実数に落とす)としてしまえば二次方程式 ax^{2}+bx+c=0 になります.

また,パラメーター \theta を使えば,『点 \alpha を中心とする半径 r の円』を次式のように表現することもできます. e^{i\theta} = \cos \theta + i\sin \theta に注意すれば,図形的意味は明らかでしょう.

z = \alpha + r e^{i\theta}

直線

複素平面上の二点 \alpha,\beta を通る直線の方程式を考えて見ましょう.変数を z とすると,二点を通る直線の条件は『線分 z\alpha が,直線 \alpha \beta 上に重なること』だと言えますから,式の上では次のように表現されます. p-\infty から \infty から変化する実数パラメーターだとします.

z-\alpha =p(\alpha - \beta )   \tag{4}
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(4) をもう少し変形させることを考えてみましょう.式 (4)\frac{z-\alpha }{\alpha - \beta }=p と変形すると,右辺が実数ですので左辺も実数のはずだということに気づきます. \frac{z-\alpha }{\alpha - \beta } が実数であることは,次のようにも表現できます.

\frac{z-\alpha }{\alpha - \beta } \in R \ \ &\Longleftrightarrow \ \ \Im \Big( \frac{z-\alpha }{\alpha - \beta } \Big) = 0 \\ &\Longleftrightarrow \ \ \frac{z-\alpha }{\alpha - \beta } = \overline{\Big(\frac{z-\alpha }{\alpha - \beta }   \Big) }  \\   &\Longleftrightarrow \ \ \frac{z-\alpha }{\alpha - \beta } = \frac{\bar{z}-\bar{\alpha} }{\bar{\alpha} - \bar{\beta }}   \\   &\Longleftrightarrow \ \ (\bar{\alpha} - \bar{\beta })z - (\alpha - \beta) \bar{z} + \alpha  \bar{\beta } - \bar{\alpha} \beta) = 0 \\ &\Longleftrightarrow \ \ \bar{B} z + B \bar{z} +C = 0  \ \ \ \ \ \ (B = \alpha- \beta, \ \ C =  \alpha \bar{\beta}-\bar{\alpha}\beta )        \tag{5}

これは,先ほど円の方程式 (3) を退化させて得た式と同じ形です.(もう一度比べてみて下さい.)これが一般的な直線の方程式です. C が実数になることも確認してください.式 (5)BC の図形的意味ですが,式 (5) は『 OB と垂直な直線』を表わし,直線から原点に下した垂線の長さは \frac{C}{2|B|} になることが示せます.(証明は簡単なので自分でやってみてください).

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(4) を導くときに使ったテクニックですが,二直線が平行であるか,直交するという図形的関係を,複素数の実部と虚部を使って次のように表現できます.二点 \alpha , \beta を通る直線を l ,二点 \gamma , \delta を通る直線を m とします.

【二直線の平行】

l \parallel m \ \Longleftrightarrow \ \Im \Big( \frac{\alpha - \beta}{\gamma - \delta} \Big) =0 \ \Longleftrightarrow \ \frac{\alpha - \beta}{\gamma - \delta} - \frac{\bar{\alpha} - \bar{\beta}}{\bar{\gamma} - \bar{\delta}}=0      \tag{6}

【二直線の直交】

l \perp m \ \Longleftrightarrow \ \Re \Big( \frac{\alpha - \beta}{\gamma - \delta} \Big) =0 \ \Longleftrightarrow \ \frac{\alpha - \beta}{\gamma - \delta} + \frac{\bar{\alpha} - \bar{\beta}}{\bar{\gamma} - \bar{\delta}}=0  \tag{7}

反転(鏡像)

次図のように,ある半径 |r| の円に関して,同じ半径の延長線上に乗る二点で OP \cdot OQ = r^{2} を満たす二点を, この円に関して反転の関係にある と言います.この円を 反転円O反転の中心r反転半径 と呼びます. これを 鏡像 とも呼びますが,鏡像という用語は,円に関する反転だけでなく,もっと広い意味で,二つの図形や点の双対的な関係を指すのにも用いられるようです.

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簡単のため,いま原点を中心とする円を考えると,円の方程式は |z|=r で表わされます.点 P を極形式で z_{1} = r_{1}(\cos \theta + i \sin \theta) で表わすことにすると, P の反転 Q は,偏角は P と同じく \theta になります. OP \cdot OQ = r^{2} を満たすように絶対値を考えると, z_{2} = \frac{r^{2}}{r_{1}}(\cos \theta + i \sin \theta) と表わせることが分かります.

特に,半径 1 の円に関する反転は, z_{1} = r_{1}(\cos \theta + i \sin \theta) に対して z_{2} = \frac{1}{r_{1}}(\cos \theta + i \sin \theta) で与えられます.

[†]いまのところ,円に関する反転という概念はあまり活用しませんが,そのうちに複素数を使った幾何学の章で考察を深めたいと思います.円に関する反転を,反形と呼ぶ場合もあります.

逆数

複素数の逆数の図形的意味を考えてみましょう.逆数とは,掛けて 1 になる数のことですから, z の逆数 z^{-1} は次式を満たすはずです.

z \cdot z^{-1} = 1     \tag{7}

極形式で書けばもう少し意味がはっきりします. z = r( \cos \theta + i \sin \theta) と書き,仮に z = r'( \cos \theta '+ i \sin \theta ') とすると,式 (7) は次のようになります.

rr' (\cos (\theta + \theta ) + i \sin (\theta + \theta ')) = 1 \tag{8}

これより, r'=\frac{1}{r}, \ \ theta ' = - \theta が分かります.原点を中心とする円に関して, z の反転点を z' とすると, z'= \frac{1}{r}( \cos \theta + i \sin \theta) と書けますから, z^{-1}z' の複素共役に等しいことが分かります.

z^{-1} &= \frac{1}{r} (\cos (-\theta) + i \sin (-\theta)) \\  &= \bar{z'}      \tag{9}

複素数の逆数の図形的意味は,『原点を中心とする単位円についての反転点に対し,実軸を挟んで反対側の点』と言えるでしょう.

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初等幾何学の問題に複素数を利用する際に,この逆数の図形的イメージを使うことはあまりないかもしれませんが,後で 等角写像 を勉強するときに,このイメージが役に立つと思います.

[‡]一般に複素数 z\frac{az+b}{cz+d} の形へ移す変換を,メビウス変換と呼びます.逆数は,メビウス変換で a=d=0, \ b=c の特別な場合とも考えられます.複素数を幾何学へ応用する際,メビウス変換は最も重要な変換です.いまはあまり使わないと思いますが,興味のある人は何となく覚えておいて下さい.

アポロニウスの円

平面上の二点からの距離の比が一定である点の軌跡は円になります.これを アポロニウスの円 と呼びます.複素平面上の二定点を \alpha , \beta とし,この二点からの距離の比を k:1 \ (k>0, \ k \ne 1) として,アポロニウスの円の方程式を求めてみましょう.まず,問題の定義より次式がいえます.

|z-\alpha |:|z- \beta | = k:1 \ \Longleftrightarrow \ |z-\alpha |=k|z-\beta |  \tag{10}

両辺を二乗して次式を得ます.

|z-\alpha |^{2}=k^{2}|z-\beta |^{2} \ &\Longleftrightarrow \ (z-\alpha )(\bar{z}-\bar{\alpha })=k^{2}(z-\beta )(\bar{z}-\bar{\beta }) \\ &\Longleftrightarrow \ (1-k^{2})z\bar{z} -(\bar{\alpha }-k^{2}\bar{\beta})z-(\alpha -k^{2}\beta )\bar{z} +|\alpha |^{2}-k^{2}|\beta |^{2} =0  \tag{11}

(11) は,中心 \frac{\alpha -k^{2}\beta}{1-k^{2}} ,半径 \frac{k|\alpha -\beta |}{|1-k^{2}|} の円を表わす方程式になっていることを確認してみてください.

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ただし, k=1 の場合は線分 \alpha  \beta の垂直二等分線になります.これは,アポロニウスの円の半径が無限で,中心点 z_{0} が無限遠になる特別な場合と考えることも出来ます. k の値を色々と変化させてみるとき,アポロニウスの円は次図のような円の集合になります.図中の点線は,線分 \alpha  \beta の垂直二等分線です.

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[§]中心 O ,半径 r の円と,点 P に対し( O,P は複素数とします), |OP|^{2} - r^{2} を『点 P の円 O に関する方冪(ほうべき)』と呼びます.また,二つの円に関して,方冪が等しくなる点の軌跡は直線となり,これを根軸と呼びます.アポロニウスの円の根軸は,図から明らかなように線分 \alpha  \beta の垂直二等分線です.逆に,先に直線を引いておいて,その直線を根軸とするような円を考えてみることも出来ます.そのような円の集合を共軸円束と呼びます.共軸円束は,根軸と円との接し方に応じて下図の三種類に分類することが出来ますが,アポロニウスの円束は,双曲型共軸円束だということが分かります.
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