固体物理学の逆格子

固体物理学の逆格子

コン さんの書込 (2005/09/15(Thu) 06:40)

皆様,はじめまして.大学3年生で電子工学を学んでいる者です.

私にはずっと悩んでいることがあります.それは,固体物理学の逆格子のことです.「キッテル 固体物理学入門(上)」によりますと,

「すべての結晶構造はそれぞれ二つの格子,すなわち結晶格子と逆格子とをもっている.」

とあります.いつも頭に浮かぶのは,逆格子とは何か?なぜ逆格子を考えるのか?固体物理学における逆格子を考える利点とは?という3つの疑問です.逆格子の軸ベクトルとか,どの教科書にも書いてあるし言いたい事はわかるけれど,じゃあなぜそれを考え出したのか日本語で説明してよ,と思ってもどこにも明快な答が出ていません.

実は一昨日,高速電子線回折(RHEED)についての勉強をしている時,逆格子は「電子は粒子でもあり,また波でもある」という電子の性質と関係があるのではないか,とふと思いました.二日経った今では,自分なりの考えがまとまってきたのですが,それが正しいのかどうなのかわからないので,こちらの皆様に何かヒントをいただきたいと思い,書き込みをした次第です.

長文となってしまいました.すみません.よろしくお願いいたします.

Re: 固体物理学の逆格子

崎間 さんのレス (2005/09/15(Thu) 10:10)

> いつも頭に浮かぶのは,逆格子とは何か?なぜ逆格子を考えるのか? > 固体物理学における逆格子を考える利点とは?という3つの疑問です.

フーリエ変換で考えるからだと思います.

結晶は3次元の周期構造をもっています.結晶の性質も,その周期構造を強く反映しています.周期的な性質を評価するにはその周期の波数で評価しますが,それにはフーリエ変換が用いられます.また,実空間での周期(長さ)は,逆空間上のある一点で表すことができます.したがって,実空間の電子線回折などの密度関数をフーリエ変換したものは,逆格子空間でいろいろ考えていることになります.実空間で扱うよりも,逆格子を導入して回折現象を扱うほうがやりやすいのです.

僕も理解があいまいなので,分かりにくい回答になってしまってます (^^;

固体物理学の逆格子

コン さんのレス (2005/09/15(Thu) 13:55)

崎間様

はじめまして.回答ありがとうございます.分かりにくいなんてことはありません.よくわかる説明です.

高速電子線回折(RHEED)では,像は逆格子として表れていますよね.では,RHEED機材の内部では,フーリエ変換が行われているっていうことなんでしょうか?つまり,RHEED機材は,内部でフーリエ変換を行う機能を兼ね備えたもの,ということになるのでしょうか?

Re: 固体物理学の逆格子

崎間 さんのレス (2005/09/15(Thu) 14:35)

RHEED機材について詳しく知らないのですが,そういった装置に付属の解析ソフトウェアでは,フーリエ変換等の機能が付いているのが普通だと思います.

固体物理学の逆格子

コン さんのレス (2005/09/15(Thu) 23:18)

崎間様

なるほど!少し疑問が解けました.また何かあれば相談させてください.ありがとうございました.

Re: 固体物理学の逆格子

篠原 さんのレス (2005/09/16(Fri) 00:21)

はじめまして. 同じく,電子工学を学んでいる学部3回生の篠原です.

回折現象をであるため,電子を波として扱っているため,X線でも同様の議論が出来ると思います. キッテル(上)には,X線に関する回折の記述があり(P47〜59),これと同様のことが電子線の場合にも適用できるのではと考えるのです.

このX線回折に関する記述によると,回折によって得られる散乱振幅は格子のフーリエ変換によって与えられていることが分かります.また,このフーリエ変換部分を構造因子と言い,逆格子を用いた場合,この構造因子が非常に簡単な形で書き表すことが出来ます. このことより,RHEEDによって得られた像は,格子のフーリエ変換を反映した結果であり,逆格子を用いた場合,この像から容易に格子定数などを測定できるのではないでしょうか.

固体物理学の逆格子

コン さんのレス (2005/09/16(Fri) 00:44)

篠原様

はじめまして.丁寧にご回答いただきありがとうございます.

「容易に格子定数などを測定できる」

という部分,大変気持ちよく読むことができました.本当にその通りですよね.逆格子を用いることでこんなに大きな進歩があるのですね.

ここでさらに疑問に思ったのですが,ではなぜ格子を実空間で解析しないのでしょうか.これに対する私の意見は,3次元の波をRHEEDの像で表し,かつそれから格子定数等を測定するのは非常に困難だから,なのですが,これで良いと思われますか?

Re: 固体物理学の逆格子

篠原 さんのレス (2005/09/16(Fri) 01:18)

「3次元の波をRHEEDの像で表し,かつそれから格子定数等を測定する」

ここの記述に,少し違和感を感じるのですが,少し誤解されていませんでしょうか. RHEEDに反映されるものは,電子の「波」の周期性ではなく,結晶の「格子点(面)」の周期性です. また,RHEEDにより得られる像は,もともと格子のフーリエ変換を反映したものですから,そこから直接格子定数を測定する(実空間で解析する)ことは,出来ないのではないでしょうか.

RHEEDで得られる像は構造因子Sが0にならない結晶面について,電子線の波長とその結晶面の間隔に対して,ブラッグの回折の条件を満たす角度に強い回折が現れるため,その角度などから,対応する結晶面,格子間隔を測定できるのではないでしょうか?

書いていて,ちょっと自信がなくなってきました・・・. ごめんなさい(>_<)

固体物理学の逆格子

コン さんのレス (2005/09/16(Fri) 01:38)

「RHEEDで」と記述したのがいけませんでした.私の頭の中では「逆格子がRHEEDならばそれの実空間版」という意味になっていたのです.きちんと書かなくてごめんなさい.

また,確かにRHEEDに反映されるものは電子の「波」の周期性ではなく,結晶の「格子点(面)」の周期性です.非常に誤解を生む書き方をしてしまいました.ちゃんと言いたいことを改めて記述します.

「格子を,光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡のように知覚で捕らえられる形で見られたら良いなと思うが,それは原子のスケールから考えて現段階では無理である.でもやっぱり目で見られたらなぁ」

という願望が入っていたのです.今気が付いたのですが,掲示板に書き込むうちに,私の頭の中でRHEEDと顕微鏡をごちゃ混ぜにしていました.ごめんなさい.なんかやはりまだRHEEDについて勉強不足なのだと思います.

でも逆格子の意義については相当すっきりしましたよ.篠原様,ありがとうございました.

Re: 固体物理学の逆格子

NOBU さんのレス (2005/09/16(Fri) 15:08)

コンさん,こんにちはNOBU@物理のかぎプロジェクト,です.

現在は走査型トンネル顕微鏡(STM)や,透過型電子顕微鏡(TEM)で原子一つ一つを実空間で見ることもできますよ.STMに関する記事がかぎしっぽにあるので是非読んでみて下さい.

固体物理学の逆格子

コン さんのレス (2005/09/16(Fri) 23:48)

NOBU様

早速読ませていただきました.非常に分かりやすい文章の上,あの画像の素晴らしいこと!!びっくりしました.私はこのような画像を見てみたかったのです.教えていただき,ありがとうございます.

私が思うよりもずっと何年も前に,「原子が見れたらノーベル賞ものだ」と言われ,実際に開発していた人がいたとは….お恥ずかしい….

SEMやTEMはよく見聞きしますが,STMという顕微鏡もあるのですね.私はSTMが一番好きです.知覚的にわかりやすいので(笑)

本当にありがとうございました.

Re: 固体物理学の逆格子

にしかわさん さんのレス (2005/09/27(Tue) 14:42)

逆格子って,要するに方向に関する周期性だと思いますが.

k(ベクトル)空間って要するに電子がどの方向(どういった速度)で動いているかの空間なので結局アールヒードにおいて反射された電子線も,結晶の表面の構造(結晶面の周期性)に由来した方向で異なる回折パターンが見られるんじゃないでしょうか?

キッテルの下巻の最後の方にも少し書いてありますが.