電子などを波束で考えること

電子などを波束で考えること

なみ さんの書込 (2010/03/09(Tue) 13:20)

量子力学では,粒子を波束で考えることがありますが,一般に波束は時間が経つと崩壊してしまいます. たとえば,幅が10のマイナス10乗メートルの波束を考えるとき,それが1ミリの大きさになるまでの大まかな時間は,電子の場合だと,4×10のマイナス10乗秒程度になります. このように短時間で崩壊するような波束で電子を考えることに疑問を持つのですが・・・ これについてご意見をお聞かせください.

Re: 電子などを波束で考えること

mNeji さんのレス (2010/03/10(Wed) 04:21)

量子力学の枠組みに関わる様な問題みたいで難しそうですね.

逆に,「波(なみ)」;光,ド・ブロイ波;の立場ではなくて,「粒(つぶ)」;光子,電子;の立場であったら,初期条件で静止しているとすると考える事は可能ですね.ところが,そのような静止座標系からみても,その「粒」は,ゼロ点エネルギを持つので位置の揺らぎは押さえきれないのではないでしょうか.

「不確定性原理を言い換えただけで,解釈が違っている!」というお叱りを受けそうですが....

Re: 電子などを波束で考えること

なみ さんのレス (2010/03/10(Wed) 10:59)

mNejiさん,ご意見ありがとうございます. 私がお聞きしたいのは,波束での粒子像についてです. 元々,単純な波の式,つまりサインやコサイン(または複素数の波として指数関数)などは,大きく空間的に広がったものです.(もちろんポテンシャル中に束縛されている状況もありますが) それでは実際の粒子の描像(ある時刻に空間のある場所に局在している)からは外れているということで,多くの波を重ね合わせて,1つの大きなピークを持つような波にするのが波束の導入になっているはずです. 単純な1次元の進行波は,exp{i (kx - ωt)}と書くことができますが,粒子と波を結びつける関係として,次を使います. 運動量:p = hk エネルギー:E = p^2/(2m) = hω ここで,h はプランク定数を2πで割ったもので,m は粒子の質量です. これから ω が,ω = hk^2/(2m) となって,群速度 dω/dk = hk/m = p/m となり,ニュートン力学で p = mv としたときの粒子像と一致します. 一般に波束 ψ(x,t) は,時刻 t = 0 で x = 0 を中心に幅 a 程度のガウス分布として求めますが,波束の幅は時間とともに, a {1 + (ht/m a^2)^2}^{0.5} のように広がるということです. 幅 a のガウス分布とは,|ψ(x,0)|^2 = exp (- x^2/a^2) という意味です. (波束のピーク自体も,群速度での波数を k0 とすると,kk0/m = p0/m の速度で移動します) この式から, m が大きければ広がり方は小さくなりますが,電子などのように,本来,粒子と考えられてきたものを波で考えようとしたものについては,逆に広がり方が大きくなってしまうということです. それで,これについて,小さな粒子を波束で考えることをどのように思われますか?ということをお聞きしたいのです.

もちろん,ここでの波束は,波動関数(確率振幅)のことです.

Re: 電子などを波束で考えること

なんとなく さんのレス (2010/03/10(Wed) 11:40)

これは私見ですが.

自由粒子の場合,波束を持ち出すまでまなく,そもそも平面波解は位置と運動量について無限大の不定性を持ちうるという面で実際の観測を満足しませんが,局所的にそうみなせることは経験上明らかです.もっとも観測を行った時点で自由ではなくなりますが. 常識的には人為的ですが周期的境界条件を課すことによって,その極限として理解することになるのでしょうが,波束としてガウス型をとることもある意味人為的です. ここからは全く認知されていないことですが,シュレディンガー方程式自体は線形空間を仮定しており,非線形な真空場については近似であると言えます.もし非線形であるならその波束はソリトン解を持つため時間発展に対して保形(形を保つこと)となることが出来ます. 最近は非線形ポテンシャル場でのソリトン解が盛んに研究されていますが,物質場をすべてソリトンに置き換えるには超弦理論や余剰次元などにおけるより深い知見が必要な気がします.敢えて言えば,波束の本当の意味はそれを待たねば理解できないと思うのですが.

Re: 電子などを波束で考えること

mNeji さんのレス (2010/03/10(Wed) 12:43)

なみさん,

要するに;

>一般に波束は時間が経つと崩壊してしまいます.

>小さな粒子を波束で考えることをどのように思われますか?

これらが対立的な感じをお持ちになるのだと感じます.これをシュレディンガー描像で論じるのは,なんとなくさんと論議を進められると良い様におもいます.

さて,高校で実験されたと思いますが,陰極管に封じ込まれた電子銃からでた電子が,平面部分に衝突して蛍光を発したり,その前にスリットをもうけて回折するなどの実験から,粒子性とか波動性とかを実感したと思います.

以下の話では,「束縛系」は論議からはずさせて戴きます.

すると, もし,電子銃から放出された電子は余程十分に運動量を揃えてやらない限り,「波束は時間が経つと崩壊」すると思います.

その究極な状態が運動量ゼロを造り出せたとしても,「静止できない」ということと裏腹の関係をしめしているとおもいます.ただ,この崩壊した状態を,何度も測定すれば,崩壊後の「位置の平均値は原点」にあり,「運動量の平均値はゼロ」は保存されると思います.

なお,「波束は時間が経つと崩壊」と「その粒子の存在が無くなる」とは違う現象であるとおもいます,念のため.

Re: 電子などを波束で考えること

yama さんのレス (2010/03/10(Wed) 13:13)

私からも考えを述べさせていただきます.

一定の運動量を持つ自由粒子の波動関数は平面波であって,その位相速度は古典的粒子と見なした速度の半分です. この波動関数は空間全体に一様に広がっているので,粒子の位置は完全に不確定です. 粒子の位置をΔq程度の精度で測定すれば,測定直後の波動関数はΔq程度の空間的広がりを持つ波束となり,その波束の移動速度すなわち群速度は古典的粒子と見なしたときの速度と一致します. この波束は全体として群速度で移動しますが,同時に波束自体が時間の経過とともに広がっていきます.これは粒子が存在する可能性のある範囲が広がっていくということであり,位置と運動量の不確定性に関係します. 粒子と見なした場合,位置の測定によって運動量に h/Δq程度の不確定さが生じます.従って速度にはh/(mΔq)程度の不確定さが生じ,その結果,時間の経過とともに位置の不確定さが増加することになります.

Re: 電子などを波束で考えること

なみ さんのレス (2010/03/10(Wed) 18:22)

皆さん,ご意見ありがとうございます.

> なんとなくさん

非線形な方程式だと,形の崩れないソリトンとしての波動関数が出てくるとのことですが,今後の研究が期待されます.

> mNejiさん

要は単純に,空間的に局在した形のまま長時間時間発展する粒子と極めて短時間で空間的に大きく広がる波束では,描像が一致しないではないか,というのが一番の不満です. 元々,空間的に局在させようということで波束を持ち出したのに,それが極めて短時間で崩壊してしまうようであれば,あまり意味がないのでは?ということです. 質量 m と最初のガウス分布の幅 a が大きければ問題ありませんが. 確率振幅である波束が無限に大きく広がっても,粒子が無くなる意味にはなりませんが,粒子を見出す確率が最大を示すピークすらつぶれて無くなり,不確定さは無限大になります.

> yamaさん

平面波 exp{i (kx - ωt)} の位相速度は,k (x - ω/k t) から ω/k = hk/2m = p/2m となって群速度の半分ですね. 波束 ψ(x, t) は, ψ(x, t) = ∫c(k) exp[i {kx - ω(k)t}] dk で作られるので, 波束が広がる理由は,異なる波長(波数は2π割る波長)の波を重ね合わせで,それぞれの位相速度が異なることが原因だったと思います. これは結局,異なる運動量・エネルギーの波の重ね合わせということで,それは異なる多数の粒子の重ね合わせと同じで,その時点で最初の1つの粒子というものからは外れることになりますね. いずれにせよ量子力学の不確定性原理に従えば,運動量(エネルギーも)の確定した粒子は位置に不確定さを生じ,逆に位置が確定した粒子は運動量(エネルギーも)に不確定さを生じるので,波束の崩壊は不可避のようです.

以上,極めて短時間で崩壊するような波束は正直気に入らないのですが,やはりどうしてもそうなってしまうようですね. なお,これまでの私の記述で誤りとかあったら,ご指摘ください.

Re: 電子などを波束で考えること

yama さんのレス (2010/03/10(Wed) 22:33)

>これは結局,異なる運動量・エネルギーの波の重ね合わせということで,それは異なる多数の粒子の重ね合わせと同じで,その時点で最初の1つの粒子というものからは外れることになりますね.

そうではないと思います. 1個の粒子の状態がいろいろな運動量の固有状態の重ね合わせで表されるわけであって,多数の粒子の重ね合わせになるわけではありません. 測定してもいろいろな運動量の多数の粒子が観測されるわけではなく,ある運動量を持つ1個の粒子が観測されるだけです. いろいろな運動量の固有状態の重ね合わせであるため,観測される運動量の値は予め確定しているわけではなく,重ね合わせの状態によって確率的に予測できるだけです.

>以上,極めて短時間で崩壊するような波束は正直気に入らないのですが,やはりどうしてもそうなってしまうようですね.

波束の広がり方は不確定さの程度によって異なります. 例えば霧箱で粒子の軌跡を観測する場合,軌跡の幅は1mm程度ではないでしょうか.つまり速度に垂直な方向の座標を1mm程度の精度で観測することになります. この場合,運動量の不確定さは非常に小さくなり,波束はゆっくりとしか広がりません.従ってこの場合はほとんど古典的粒子と見なせると思います.

Re: 電子などを波束で考えること

なみ さんのレス (2010/03/11(Thu) 00:58)

yamaさん,誤りのご指摘ありがとうございます.

そうですね. 1つの粒子の異なる固有状態の重ね合わせですね.

波束の広がり方が位相速度の差によるものとすると,位相速度の一番速い波と遅い波の差Δvは, Δv = Δp/2m = hΔk/2m 一方,不確定性原理から,位置をΔxで測ったとすると,運動量Δp=hΔkは, ΔxΔp = hΔxΔk = h より, Δx = 1/Δk 最初の波束の幅 Δx が2倍に広がるまでの時間を t とすると,広がる幅としては Δx なので, Δx = (Δv) t = (hΔk/2m) t = (h/2m Δx) t ∴t = 2m Δx^2/h で見積もると, t = 2 × 0.9 × 10^(-30) × (10^(-3))^2 / 10^(- 34) = 2 × 10^(-2)秒 となります. これは電子の軌跡と直角な方向の波束の広がり方になるはずですが,こういう値になりますね. まだ広がり方は速いような気がしますが,運動量の不確定さ Δp が小さければ,それに反比例して位置の不確定さ Δx は大きくなるので,波束が広がるまでの時間が長くなる,つまり,ゆっくり広がるというのがわかります. 仮に電子の速さが光速近くとすると,大まかには, 10^8 × 10^(-2) = 10^6 m 進んで2倍に広がるので,これで十分なのかもしれません.

どうやら最初に Δx を原子の大きさ程度で波束を考えることが,波束が実際の粒子像とあわないという感覚を与えることになるのかもしれません.

まだおかしければ,ご指摘どうぞ.