慣性力

慣性力

あるた さんの書込 (2009/06/07(Sun) 16:05)

加速度aで走っている電車の中で天井から紐につけた質量mの質点をつるした.このとき紐が切れないためには紐の張力は最低どれくらいの力に耐える必要があるか.

という問題なのですが,答えがF=m?(a^2+b^2) どうやって求めるんでしょうか? お願いします.

Re: 慣性力

transfer さんのレス (2009/06/07(Sun) 18:50)

その答は,F = m √(a^2 + g^2) の間違いだと思います(つまり, b ではなく,地上の重力加速度の大きさ g)が,次のようになります. まず,電車が止まっている状態から考えます. つまり,a = 0 の状態です. このとき,電車の天井から吊した紐の先につけた質点に働く力は,紐からの張力(質点から紐を吊している天井の方に向かう上向き)と,地球が質点を引く重力(下向き)です. 紐の先の質点がそのままの状態を続けるのは,張力と重力がつり合っている場合です. 張力を F と表し,重力加速度の大きさを g としますと, F - m g = 0 より, F = m g でなくてはなりません. もしも仮に,張力 F が m g の強さにも耐えられないとすると,紐は質点を吊した途端に切れてしまいます.

次に,電車が加速度 a で動いている状態を考えます. このとき,質点には,紐からの張力と重力,それに加えて慣性力が働きます. 慣性力というのは,座標系によって現れたり消えたりする力で,遠心力やコリオリの力も慣性力の一種です. (慣性力については,高校生向けの本より大学生向けの本を読んだ方が,数学的にも明快ですので納得がいくと思います. このサイトでは,「解析力学」のところの「ダランベールの原理」が関係しますが,あまり詳しくは書かれていないようですね) 実際に実験してみればわかりますが,紐は電車の進行方向とは逆の方向に傾きます. なぜこのような状況になるかというと,紐と電車は天井部分でつながっているので,電車が動けば紐の天井部分はすぐに同じ加速度で動き出しますが,紐の下の部分やその末端の質点には,時間が遅れて電車の加速度が伝わっていきます. 最初に電車が加速を開始した時点で,電車と質点との間に加速度 a の差ができてしまうわけです. そういうわけで,質点は取り残されて電車が加速を始めたことになり,電車の進行方向とは逆方向にある角度で紐は傾きます. 電車が加速中は,常に加速度の伝わっていく時間差がありますから,ある角度で傾いたままです.(角度は加速の状況に応じて時間的に変化してかまいません) (電車が加速を小さくしていって一定の速さになれば,質点も電車とまったく同じ速さになっていき,紐は傾かず,電車の天井からまっすぐ下に向かって垂れた状態になります) さて,このように紐が傾いた状況を慣性力で説明する場合,電車の進行方向とは逆に - a の加速度で慣性力は働きます. 紐の傾きを,天井の取り付け部分からの鉛直下向きを基準に角度 θ で表すことにします. このとき,角度 θ で電車の進行とは逆方向に傾いたままの状況を,紐の張力 F ,重力 m g,慣性力 - m a を使って力のつり合いで考えると, 水平方向の力のつり合い:F sinθ - m a = 0 鉛直方向の力のつり合い:F cosθ - m g = 0 となります. 結局,F sinθ = m a, F cosθ = m g ですから, (F sinθ)^2 + (F cosθ)^2 = F^2 = m^2 (a^2 + g^2)===>F = m √(a^2 + g^2) となります. これが角度 θ で傾いているときの紐の張力の大きさです. この状況よりさらに加速を続ければ(つまり,ルートの中の a^2 が大きくなる),θも大きくなって質点の位置は天井に近づいていきます. 当然,F の大きさも大きくなり続け,ある限界の値を超えれば,紐は切れてしまうでしょう. 紐の限界の力を与えて,どの加速まで紐が耐えられるか?という問題も作れます.

Re: 慣性力

あるた さんのレス (2009/06/07(Sun) 21:50)

bではなくgでしたね.申し訳ありません. 詳しい説明ありがとうございます. とてもよくわかりました. また自分で解いてみたいと思います.

Re: 慣性力

transfer さんのレス (2009/06/08(Mon) 10:13)

あるたさん,少し訂正です.

> さて,このように紐が傾いた状況を慣性力で説明する場合,電車の進行方向とは逆に - a の加速度で慣性力は働きます.

と書きましたが,「電車の進行方向」ではなく,「電車の加速度の方向」と訂正します.

つまり,ある速度になっていたのを減速(電車の進行逆方向に加速度をかける)してスピードを下げる(しかし,電車の進行方向は前と変わらない)場合,電車内の質点には電車の進行方向と同じ方向に慣性力が働き,質点を吊している紐は電車の進行方向に傾きます. 最初の電車の進行方向を加速度の正の方向,それと逆を加速度の負の方向とすれば,減速時の電車には - a の加速度が働き,そのときの慣性力の加速度は - (- a) = + a ということです. 結局,電車がスピードを上げたり下げたりすることに応じて,質点を吊す紐はぶらぶらと様々な角度で時間的に変化し,張力の大きさも時間的に変化します. このように電車が加速・減速を行うと,一般的に紐はぶらぶらと揺れますが,一定の速度(一定の速さと一定の方向という等速直線運動)で電車が走り続けていれば,やがて空気の抵抗で揺れは収まり,電車が静止しているのと同じように紐はまっすぐ下を向くようになります. 等速直線運動の状態の座標系と静止状態の座標系はニュートン力学の範囲では等価で,ガリレイ変換というもので2つの座標系は結ばれます.