ファインマン物理,力学の中に出てくる氷の図について

ファインマン物理,力学の中に出てくる氷の図について

komagatake さんの書込 (2008/10/02(Thu) 15:46)

ファインマン物理をチラチラ見直しています.

いきなり最初から「?」と思う記述に出会いました.

力学の最初で物質の世界の紹介をしています. 原子のスケールの世界がどういう風になっているかの紹介で「液体の水」,「気体の水」,「固体の水(=氷)」の説明をしています.図が添えられています.

水の分子を大きな黒い丸(酸素O)と小さな2つの白い丸(水素H)で表しています.HOHの角度は本当は105.9°だか図では120°だと断りも入れてます.立体を平面で書いているので本当ではないところもあるがそれでも氷の対称性は正しく表していると書かれています.

「この図を軸の周りに120°回すともとにもどる.雪華は六角形だがこれを説明しうる対称性が氷の中にあるのである.」 としています.「六方対称の一部が現れている」とも書いてあります. 添えられている図1−4は丁寧に書かれていますので単なる模式図ではないと思います.

(1)120°の回転でもとにもどる対称性を六方対称と言うのでしょうか.60°の回転でもとにもどるものについて言うのではないでしょうか.

(2)そもそも添えられている図が不思議です.丁寧に黒丸と黒丸,白丸と白丸が くっつくように書かれていて3回対称の六角形になっています.

水の構造には水素結合が大きく効いている事は当時でも周知のことだったと思います.−H・・・O−Hという構造ですから○●○になります.○○とか●●とかの構造は出てきません.これは模式的なものだとしても書かれることのないものです.高校の教科書でもこの点では一致しています.H・・・O−Hは守られています.

何故こういう書き方をしたのか不思議です.訳者の注にも触れられてはいません. 1960年頃に酸素は酸素と,水素は水素とくっつくというような認識がある程度認められていたのでしょうか.ファインマンとその周辺の物理学者が揃ってそういう認識を受け入れていたのでしょうか. 化学結合,水素結合の理論で有名なポーリングがノーベル賞を貰ったが1954年ですから1960年ごろであればアメリカの物理学会の中でも常識になっていたのではないだろうとと思っていたのですが.

氷はその水素結合によって結合が正四面体の頂点の方向に伸びていますからダイヤモンドの構造とよく似たものになっています.ダイヤモンド構造を模型で組んである方向から見ると6角形の穴の連なりがはっきりします. この6角形は平面に書かれた図では表すことが出来ないものです.高校の教科書では結合が4方向ということを平面の4回対称の図で表しています. この辺に理由がありそうです.無理に6回対称を平面で表すために水素結合を無視したということであれば水の分子をただそういう風に並べればいいはずです.H−O−Hの構造を出してくる必要はないのです.

評価の高い本でこういう風な記述があると全体に対する信頼が揺らぐような気がしてきます. ワインバーグの本でも「食塩の分子」という言葉でがっくりした記憶があります.

皆様はどう思われますか.

Re: ファインマン物理,力学の中に出てくる氷の図について

yokkun831 さんのレス (2008/10/12(Sun) 11:08)

こんにちは.

私は,この部分の記述に限りファインマンの図とその説明は 許容できる範囲だと考えます.むしろ教育的な配慮から出た 妥当な簡略化ではないかと考えています.

ファインマンは,「2次元に書いてあるので,本当は正しくない」 「そのままほんとの配列というわけではない」と2度にわたって 断り書きしています.また,120°まわすともとにもどるすなわち 3回対称を「六方対称の一部」と表現しており,正しい記述です. 図1-4を見るとどうしても六角形にならんだところを見てしまうの ですが,ある1分子のまわりの3分子との結合をみると,正四面体 構造の1頂点方向を省略したものと見ることができます. 確かに水素結合を無視して水素どうしがなかよく並んでいる気持ち 悪さはありますが,水分子の形の特徴を残しながらなおかつ水素が 隣接する分子の酸素に近づいた状態を2次元で表現しようとすれば これは避けられないことです.むしろ2次元の大きな制約の中で 水素結合に配慮した表現だと私は思います.

ここでファインマンは,水素結合による結晶構造の厳密性をあえて 犠牲にして,状態変化における分子の結合や離散をわかりやすく 表現するという教育的な目的を優先させたということではないか と思います.これらの図の教育的効果は,後に続く蒸発,溶解, 化学変化,スミレの匂い・・・という一連の図を見ると明らかでは ないでしょうか?

もちろん,今ならフルカラー3DのCGでもっとリアルな図をふんだんに 使えるでしょう.しかし,ファインマン物理学は講義記録であること を考え合わせると,当時与えられた教室の設備の制約,図版の作成・ 準備の条件から考えて,これらの図は精一杯のものではないでしょうか?

Re: ファインマン物理,力学の中に出てくる氷の図について

komagatake さんのレス (2008/10/13(Mon) 19:24)

yukkun831さん レスありがとうございます.

3次元を2次元に落として書くとしても水素結合の考慮は外せないものと思っています.氷のダイヤモンド構造自体水素結合によって決まるものだからです. 平面の正6角形の対称性を持った結晶を水素結合を入れて書くことができないということは確かです.でもそのためにありもしない結合を想像させるような図を書いて対称性のほうを優先させるというのが納得行かないのです.

−HH−OO−HH−OO−H HはHとくっつく,OはOとくっつく,ありえない構造です. 化学の立場で言えば仮に中学生向きの本でも絶対書かないものです.

固体物理でイオン結晶の構造が出てきます.正イオンの最近接イオンは必ず負イオンです.これは図を描くときに2次元に落として模式的に書いたとしても外せないもののはずです.対称性を言いたいために正イオンと正イオンがくっつくという図を書けば「????」となるはずです.

物性の基本は化学結合のはずです.

H−O・・・H−O・・・H で6角形を1つ書くことはできます. でも6角形が繋がったものを書くことはできません. 6角形の角に酸素を置くとしてもそこから手が3本しか出ていないからです.「2次元だから書くことは出来ないが」と注を入れるより仕方がないかもしれません.

半導体の教科書にある珪素の図は正4面体を平面正方形に落としています. これならH−O−Hを90°に変えることで対応させることが出来ます. H−O−Hは直線ではなくて曲がっているということの強調で90°の図が書かれることは多いですから「平面だから90°で書く」という注で通ることです.90°を前提とすると正方格子の対称性が出てきます.「分子の構造が物質の対称性に反映する」ということを示すことも出来ます. ファインマンはこれが言いたかったのかもしれないと思いますが結合を無視してそれを言うというところに引っかかるものを感じるのです.

Re: ファインマン物理,力学の中に出てくる氷の図について

yokkun831 さんのレス (2008/10/13(Mon) 20:41)

なるほど確かにH−Hはいたしかたないとしても O−Oはすこぶる気持ち悪いですね. ファインマンは,水分子の平面表現と結晶の対称性 をとって,水素結合を捨てたということになります. 2次元表現をするとしても今ならこうは描かないで しょうね.むしろ水分子の平面表現を捨てるでしょう. 捨てる部分はごく一部ですみそう? まあ,45年前の大学生初級ではファインマンの図で 十分受け入れられたとは思いますけど. 日本の高等学校学習指導要領では昭和45年改定化学II で初めて現れているようです.10年毎だからあたりまえ ですね.^^; ファインマンともあろう人が・・・ということであれば 何にもいえませんが.