神経電位の物理学

神経電位の物理学

Yanaqui さんの書込 (2008/03/20(Thu) 16:58)

生物物理学の内容ですが造詣のある方に教えていただければ助かります.

  1. ニューロン細胞膜を挟んで外側及び内側のポテンシャルをそれぞれΦo[mV],Φi[mV]とする.
  2. 膜電位は,Vm = Φo - Φiである.
  3. 長軸方向(ニューロンに沿って流れる?)の細胞外電流はIo[μA],細胞内電流はIi[μA]
  4. 膜を横切る電流はImである.
  5. δ/δt = 0である.(時間によって変化しない定常電流のようなもの?)

このとき,オームの法則から ∂Φi/∂x = - Ii*Ri, ∂Φo/∂x = - Io*Ro (Ri, Roは細胞内外の抵抗,恐らく長軸方向の距離がx) と説明されています.

質問[1] ポテンシャル÷距離は電場でもあるので,この説明のような関係を考えていいのか疑問です.

質問[2] Im = - ∂Ii/∂x = ∂Io/∂x ということで,これは電流保存則によるとのことですが,キルヒホッフの法則のことでしょうか.また,膜の厚さをdx程度と考えているからこうなるのでしょうか.

質問[3] [2]に関連して,膜の内外表面で計った電位をΦis, Φosとすると,膜の厚さhが長軸方向の長さに対して非常に小さいとすれば(あるいは長軸方向の長さが∞と仮定すれば),(Φos - Φis)/h = dΦ/dx と考えることは可能でしょうか.

以上宜しくお願いします.

Re: 神経電位の物理学

yama さんのレス (2008/03/21(Fri) 09:30)

細胞膜の構造についてはよく分かりませんが,極性分子やイオンの存在によって内外の電位差が生じているのだろうと思います.それはともかくとして,電磁気学的には次のように言えるのではないでしょうか.

質問[1] について RiやRoは抵抗ではなく抵抗率(単位断面積・単位長さ当たりの抵抗)で,IiやIoは電流密度を表しているのだろうと思います.そう考えれば示された式が成り立ちます. あるいは,RiやRoを単位長さ当たりの抵抗,IiやIoを電流と考えることもできます.

質問[2]について この場合の電流保存則は,キルヒホッフの法則のことだと思いますが,Im = - ∂Ii/∂x = ∂Io/∂x はおかしいと思います. -∂Ii/∂x は電流/長さの次元を持つので,それが電流Im に等しくはならないと思います.

質問[3]について dΦ/dx は電場の長軸方向の成分で,(Φos - Φis)/h はそれに垂直な方向の電場の成分の平均値なので,これらは一般には等しくはならないと思います.

Re: 神経電位の物理学

Yanaqui さんのレス (2008/03/23(Sun) 19:59)

yamaさん回答くださりありがとうございます(返信とお礼が遅くなり申し訳ありません). なるほどこれで納得がいきました.

質問[2]については勘違いしていたようで,Imというのがトータルの神経軸索長(したがって長軸方向の長さ)あたりの膜を横切る電流量のようです.

質問[3]についてですが,それでは仮に膜に対する法線方向をxとすれば機械的にというか,なんの制約もなく(Φos - Φis)/h=dΦ/dxとできるでしょうか.

申し訳ありませんが質問をもう少し追加させてください.

質問[4]別の神経電位の計算方法では,ドリフトフラックス J_df という概念が使われています. J_df[mol/sec・cm^2]=電気伝導度(σ[mol/V・sec・cm])×電場 (E [V/cm])=-μzC(∂V/∂x) (μ=移動度[cm^2/V・sec], z=価数, C=mol/cm^3) このとき,一番右側の式にマイナスがつく理由は何でしょう.

質問[5] これは物理につての純粋な興味から質問するのですが,関連性を考えるとこのJ_dfという物理量は先の電流密度から導きだせるはずだと考え調べていたのですが(その問題自体は解決したのですが),さるホームページの電流密度の説明に「電流密度は電荷担体の電気量と濃度と移動度をかけたもの」という説明がありました.しかし,これだと次元が矛盾するように思えます.電流密度が「体積あたりの電荷の量」×「電子の速度」ということを考えると,さらに電場を掛ける必要があるのではないかと思うのですが,上記のように考えることもあるのでしょうか.

関連して基本的なことを確認しておきたいのですが,

質問[6] ・基準点O及びOに極近い点PにおけるポテンシャルをΦ_o及びΦ_pとします. ・仕事量W[J/mol]=Q(Φ_p - Φ_o) …(i) (ここで,Q=電荷で,イオンの価数×ファラデー定数とも置き換え出来る) ・もし1ユニットの正電荷がOからPに移動したとして対応するベクトル・ディスプレースメントをdSとする と,dW=-E・dS …(ii)(E=電場) ・(Qをユニティーに置き換え)(i)を(ii)に適用すると Φ_p - Φ_o=dW=-E・dS …(iii)

[6-1] (ii)式のところのベクトル・ディスプレースメントというのは単純にスカラー量をベクトル量に変換するというだけの意味でしょうか. [6-2] (ii)はdW/dQ=-E・dSとするべきなように思われるのですが,Qが消える理由は何でしょうか. ユニットという概念を使っているのでdQ=1と考えているのでしょうか. [6-3] この計算過程は結局のところ,Φ_p - Φ_o= gradΦ・dSという関係を導くことが目的なのですが,その過程でテーラー展開を使うとされています.この場合,適当な方向(この記述にしたがって例えば)Sを考え, Φ_o=Φ(S),Φ_p=Φ(S+δS)あるいはΦ_p=Φ(S-δS)のように決めてしまってもよいものでしょうか.

少々と言いながら,質問数が多くなってしまいましたが,この機会に知識を持っている方から教えていただきたいのでこれらも宜しくお願いします.

Re: 神経電位の物理学

yama さんのレス (2008/03/23(Sun) 23:38)

質問[3]について (Φos - Φis)/h=dΦ/dx は近似的には成り立ちますが厳密には成り立ちません. 数学的には,左辺は平均変化率で右辺は導関数だからです.

質問[4]について E=-∂V/∂x だからです.つまり,電位が減少する向きが電場の向きになるからです. なお,電気伝導度(σ[mol/V・sec・cm])とありますが,これは普通に用いられる電気伝導度とは意味が異なるようです.このσ[mol/V・sec・cm]に1mol当たりの電気量を掛けたものを普通は電気伝導度といいます.

質問[5]について 確かに電場を掛ける必要がありますね.もしかすると,速度と書くところを間違えて移動度と書いたのかもしれません.

質問[6]について [6-1]ベクトル・ディスプレースメントというのは変位ベクトルのことだと思います. [6-2]1ユニットの正電荷を考えているからです. 一般に電荷Qが移動するときは,dW=-QE・dS ですが,1ユニットの正電荷の場合は Q=1 です. [6-3]適当な方向のSというのが曖昧だと思います.それよりも次のように考えるとよいでしょう. Oの座標を(x,y,z),Pの座標を(x+dx,y+dy,z+dz)とすると,変位ベクトルは dS=(dx,dy,dz) であり, Φ_p - Φ_o=Φ(x+dx,y+dy,z+dz)-Φ(x,y,z) なので,これをテーラー展開してdx,dy,dz について1次の項までとれば Φ_p - Φ_o= gradΦ・dS が導かれます.

Re: 神経電位の物理学

Yanaqui さんのレス (2008/03/24(Mon) 01:21)

なるほど,これで抱えていた疑問を解消することができました. yamaさんありがとうございました. また分からなくなったらお知恵を拝借させてください. (もちろんできるだけ自分で疑問を解消するよう努力するつもりですが) そのときはまた宜しくお願いします.