熱力学での疑問です.
準静的過程は可逆過程に含まれるとのことですが,実際に熱力学の過程で,可逆であって純静的でない例はどのようなものがあるのでしょうか.
力学では回転などの周期運動がありますが….
よろしくお願いします.
少し考えてみましたが,ないような気がします.無い,というのが熱力学第二法則の主張なのではないでしょうか.
はじめまして,けんさん.
可逆か,不可逆かという問題は,断熱過程でのみ問題になるものだと思って良いでしょう(等温過程ならば,途中,どんなに荒っぽく状態を変えても,それは可逆過程です.).そして,可逆か不可逆かの判定は過程の前後で,エントロピーが増大するか否かです.
正直,最近は熱力学を使っていないので,一般論からどれだけ強いことが言えるかはわかりません.
お返事ありがとうございます. >Johさん 僕も例が見つかりませんでした.
>わたなべさん 等温でも熱が流れてしまったら不可逆ではないでしょうか.
横から失礼します.
等温で熱が流れるのは準静的な場合だと思います.従って可逆です.
しかし,等温であっても不可逆な場合もあります. 理想気体が真空中へ拡散する場合は,等温ですが不可逆です. 同温同圧の2種類の理想気体の混合もそうですね. ただし,熱力学では,普通はこれらを等温過程とは言わないかもしれませんが.
>yamaさん ご説明ありがとうございます. 等温で熱が不可逆的に流れることはできないのでしょうか. 準静的に流すにはゆっくり流さないといけないので,突然熱を流すような状況だと不可逆にはならないでしょうか.
>理想気体が真空中へ拡散する場合 等温なのはどうしてでしょうか.
熱が流れるには温度勾配が必要なので,等温で突然熱を流すことはできません. 等温では熱の流れは無限にゆっくりとしか生じませんが,これは準静的過程にほかなりません.
真空中への拡散では気体は仕事をしないので内部エネルギーは変化しません. 理想気体の内部エネルギーは温度だけの関数なので,温度も変化しないことになります.
yamaさん,ご説明ありがとうございます. >しかし,等温であっても不可逆な場合もあります. >理想気体が真空中へ拡散する場合は,等温ですが不可逆です. >同温同圧の2種類の理想気体の混合もそうですね.
なるほど,はじめの例は知らないので,すぐには分からないのですが, 2種類の理想気体の混合は逆の仮定を用意するには,理想気体並みの 非現実的な装置を用意しないと駄目そうです.
想定しているのは,2種の理想気体の片方だけ通す半透膜です. これを使って,2つの気体を再び分離できると仮定すれば, 等温環境下で,もとの状態に戻すことはできるように思えます.
ぼくの言っている可逆性は,同じ操作でもとの状態にもどるという, 狭い意味で言ってはいないので,普通の「可逆」という意味からは はみ出しているかもしれません.
yamaさんのおっしゃる等温過程は,常に環境と系が等しい温度である ものと定義されていますが,ぼくの場合は,最初と最後の平衡状態だけ を問題にしています.また,熱浴の状態は考えからはずしています. 熱浴の示量変数を∞に飛ばす理想化をする立場をとっています.
半透膜を用いても混合したものが自然に分離することはないと思います. 半透膜を透過する分子は,一方向にしか透過できないわけではなく,どちら向きにも透過できるからです. もし右向きにしか透過できないならば,透過する分子を半透膜の右側に集めることができるでしょう.しかし実際は左向きにも透過できるので,そんなことは不可能です. 溶液の場合も,半透膜の両側に濃度差があれば浸透が起こりますが,両側の濃度が等しい状態から浸透が起こって濃度差が生じることはありません. もちろん半透膜の片側の溶液に圧力を加えて透過する分子を追い出して,透過しない分子だけを残すことはできます.いわゆる逆浸透法ですね. 気体の場合も逆浸透法によって分離することはできるでしょう.しかしそのためには外部から圧力を加えることが必要であって,圧力なしで自然に分離することはありません.
熱力学でいう可逆過程は,必ずしも変化の過程をすべて逆にたどる必要はありませんが,外部の状態も含めて完全にもとにもどることが必要だと思います. この意味では,異なる種類の気体の混合は可逆ではありません. 混合によってエントロピーが増加することは,ほとんどの熱力学の本に説明されていると思います.
私が等温というのは,系全体の温度が均一で,その温度が時間的に変化しないということです.環境の温度と等しいことは直接には要求していませんが,等しくなければ系の内部に温度勾配が生じるので,実際は等しくないといけないでしょう. 等温過程では,環境との熱のやりとりがありますが,それが可逆であるためには熱のやりとりも可逆でないといけません. たとえば,変化の過程で環境から熱を受け取ったとすれば,系がもとの状態にもどるときにその熱を環境に返さないといけません.
yamaさん,ご説明ありがとうございます. 混合による効果も計算したことはありますが,完全に忘れています. 今,議論する力が無いので,いったん本題に戻りたいと思います.
けんさんへ,
お題は,可逆な例でした. 等温過程で,1種類の気体を容器に入れる.壁の1つはシリンダーのように動かすことができるものとします. 1.圧縮して,体積を小さくします.そうすと,温度はそのまま,物質量そのまま,体積はもとより小さい平衡状態になります.このとき,準静的にするひつようはありません.
2.もとの体積に戻します.このときも,ゆっくりやる必要はありません.平衡状態に落ち着いたあとの系の状態は元に戻っています.
これが,準静的でない場合の可逆な過程の例です.
わたなべさんの例は等温でも可逆でもないと思います. 気体を急激に圧縮すれば温度が上昇します.その後はだんだんと温度が下がって環境の温度すなわち初めの温度にもどりますが,途中で温度が変化する場合は等温とは言わないと思います. またこの過程は可逆でもありません.圧縮するときに気体がされる仕事と膨張するときに気体がする仕事が等しくないからです.(準静的な場合はこれらは等しくなります.)
yamaさんの言われる意味の可逆性は確かにありません.そして,可逆過程とも呼ばないと思います.可逆性があれば,可逆過程だと誤った理解をしていました.
ぼくの言っている意味の可逆性は,ともかくある平衡状態から,別の平衡状態に遷移させた後,もとの平衡状態に戻せるかという意味の可逆性です.状態が戻った後と,初めの状態のエントロピーは,同じ引数を持った関数なので,同じ量です.
また,ぼくの使っている等温過程というのは,実は等温操作なのですが,その言葉を使うのを避けたかったので,等温過程と呼んでいました.等温過程は,準静的なものをさす言葉なのですね.不正確に使ってしまいました.
他方,等温操作は,ある平衡状態から別の平衡状態を見たとき,その状態が等しい温度ならば,それは等温操作と呼びます.
可逆で,準静的でない過程は,(Johさんのおっしゃったように)存在しないというのが,熱力学第2法則の意味だと思います.
yamaさん,ありがとうございます.けんさんすみません.
修正) その後,調べたところ, 久保亮五の熱学・統計力学 で定義している,広い意味での可逆過程は,ぼくの書いている可逆操作と同じ意味で定義しているように思えました.熱力学の本によって,どこまでを可逆過程と呼ぶかはまちまちなので,今,どの程度のレベルで不可逆性を問題にしているのか,明らかにしないと,意味のあるやりとりはできないと思いました.
yamaさん,わたなべさん,ありがとうございます. 可逆準静的でない過程は,存在しないというのは,背理法か対偶かを用いて,証明はできるのでしょうか,それとも経験則ですか?
久保亮五の熱学・統計力学は見ていませんが,私が今までに見た本では,わたなべさんの意味で「可逆」を用いているものはありません. 私が見たどの本も,単に系の状態がもとに戻るだけでなく,外部の状態ももとに戻る場合を可逆としています. 「準静的過程は可逆である.」とか「可逆過程ではエントロピーは変化しない.」というときの可逆もこの意味の可逆です. わたなべさんの考える可逆は,外部の状態は問題にしないで,系の状態さえもとに戻ればよいということですね.その場合,ほとんどの過程が可逆になってしまって,「可逆過程ではエントロピーは変化しない.」ということも成り立たなくなると思います.エントロピーが増加しても,増加分を外部に捨てることによってもとの状態に戻せばよいからです.
けんさんは,「準静的過程は可逆である.」ということを念頭において,準静的でない可逆過程があるかどうかを質問されたのだと思います. それに対してわたなべさんは,「可逆の意味を広げれば,準静的でなくても可逆になる.」という意味のことをおっしゃられたのだと思いますが,それはけんさんの質問にたいする回答にはなっていないと思います. けんさんは,あくまでも通常の意味での可逆過程で準静的でないものがあるかどうかを知りたかったのだと思います.
さて,けんさんの質問についてですが,純粋に力学的な運動は,準静的でなくても可逆です.しかし,熱が関係する場合は,準静的でなければ不可逆になるようです. これについては,原島鮮「熱力学・統計力学」に次の定理が証明されています.
定理一つの過程の熱現象に属する部分が非静的に行われるような過程は不可逆過程である.
この証明の根拠をたどれば,熱力学の第2法則になりますが,これは経験則だと考えてよいでしょうね.
>yamaさん 納得できました.ありがとうございます. 紹介して頂いた,原島鮮「熱力学・統計力学」を読んでみました.
熱力学・統計力学のテキストで,学年が上がっても有用なしっかりした本を一冊買おうと思っているのですが,何かおすすめのものがあれば教えて下さい. 講義は物理入門コースに沿っていますが.
熱力学・統計力学については紹介できるほどいろいろな本は読んでいないのですが,少しだけあげてみます. 長岡洋介「統計力学」(岩波基礎物理シリーズ)は説明が分かりやすいと定評があるようです. 土居正男「統計力学」(朝倉書店)も内容がすっきりとまとまっていてよいと思います. これらはいずれも入門書ですが,物理入門コースよりはやや進んだ内容になっています. もっとハイレベルのものでは,最近復刊された岩波講座現代物理学の基礎の統計物理学が定評がありますがかなり難解です. 他にも良書は多いようですが,自分でほとんど読んだことのない本を紹介するのもどうかと思いますので,もっと詳しい方に紹介して頂くことを期待します.