解りにくい MKSA 単位系となった経緯

解りにくい MKSA 単位系となった経緯

小林@那須 さんの書込 (2007/05/25(Fri) 16:15)

以前に「なぜ SI 単位系で 1 `kg をユニット単位とするのか」で投稿し「捻 くれた MKSA 単位系」を論じていた小林@那須です.そのとき分散してしま った話を掲題の文章としてまとめました.

少し長いのですが,皆様の御批判をいただけますでしょうか.

◆◆ 始めに◆◆ ●● 単位系の理解とは 単位系や物理法則の方程式は身に付けるものです.物理概念として理解・体 得されるものです.暗記するものではありません. でも SI 単位系のうち電 磁単位系は理解・体得が困難な単位系です.(以下 SI 単位系の電磁量の部分 に限定する意味で MKSA 単位系の言葉を使います)

●理論と単位系 単位系は,理論体系を理解する過程,すなわち自分の頭の中に理論体系を構 築していく過程で,物理量の概念や法則の式と一緒に理論体系の基本要素と し理解・体得されてしまうものです.理論体系を理解した後ならば,基本体 系から組み立て単位系の体系を何時でも教科書無しで再構築できるはずです.

たとえばニュートン力学を理解して使いこなしている者ならば下のような `meter, `kg, `sec の基本単位とそれから導かれる組立物理量の概念を全て 理解・体得しています.下のようなの基本単位から個別の組立単位にいたる 入り組んだ道筋も理解しています.

力学量の組立単位 `meter, `kg, `sec ─┬→ 速度:v `meter `sec^-1 --> 運動量:p = mv, `meter `kg `sec^-1 ││↓ f = dp/dt │└→ 加速度:a = dv/dg `meter `sec^-2──→ 力:f`newton `meter `kg, `sec^-2 │f=m a │ ↓│ f = dp/dt 面積:`meter^2 ──→ 圧力:p pascal = `newton/`meter^2 ←──┘ │= 単位面積当たりの力=`meter^-1 `kg `sec^-2 ↓ 体積:`meter^3 ──→ 密度==単位体積当たりの質量:`kg `meter^-3

例えば圧力という物理量の概念を体得・理解しているならば,圧力の具体的 なイメージが頭の中に構築されています.圧力は単位面積当たりの力である と分っており,また圧力 x 面積が力であると分っているので, 1 気圧の圧 力が 1`cm^2 に掛かる力 10.13`newton を頭の中で仮想的に感じることがで きます.1pascal = 1`newton/`meter = meter^-1 `kg `sec^-2 の関係式が, 単位の一覧表など見ることも無くすらすら出てきます.

でも電磁量: MKSA 単位系となると,力学量のときとは異なり組立単位物理量 の概念の連鎖として体得・理解されていません.大部分の方が `meter, `kg, `sec, `ampere の四つの基本単位から抵抗:`ohm/電圧:`volt/磁束密 度:`weber などの組み立て単位をに意たる道筋さえ明確にイメージできてい ません.

`meter, `kg, `sec `ampere --> `coulomb:`ampere `sec 抵抗 `ohm = meter `kg `sec^-3 `ampere^-1 電圧 `volt = meter^2 `kg `sec^-3 `ampare^-1 磁束密度 `kg `sec^-2 `ampare^-1

電荷:`coulomb が電流の時間積分:∫Idt であり,`comlomb = `ampere `sec 位は理解できます.でも SI 単位系の表に 抵抗 `ohm = meter `kg `sec^-3 `ampere^-1 や 電圧 `volt = meter^2 `kg `sec^-3 `ampare^-1 の 単位次元が書いてあることは知っていても,それらが基本単位から始まる物 理概念・組み立て単位の連鎖の道筋として理解されていません.極端な話で すが,物理学科を卒業していながら 1`meter 話した 1`coulomb の電荷どう しに働く力が 90 億`newton と馬鹿でかい値であることを知らないやつさえ います.(私のことです.)

抵抗:`ohm = meter `kg `sec^-3 `ampere^-1 の単位次元は,式を弄くりまわ し辻褄合わせにより導けます.ても辻褄合わせでは物理概念として理解・体 得したことになりません.SI 単位系の表に抵抗の単位次元が meter `kg `sec^-3 `ampere^-1 と書いてあっても,日常的には `ohm=`volt/`ampere で 考えています.この飛躍に納得できる説明がなければ MKSA 単位系での抵抗 を理解・体得したことになりません.(`ohm = `volt/`ampere の理解で正し いことを後で明確にします.)

●● MKSA 単位系が難しい理由 MKSA 単位系で表される電磁量の体得・理解が難しいのは,電磁気学理論の理 解が困難なうえに,Practical Unit System という捻りが追加されているた めです.

MKSA 単位系 ≡ 難しい電磁気学理論(Maxwell 方程式,emu 単位系, absolute unit system)
  • Practical Unit System(Ohm の法則, 歴史的背景)

だからです.難しい電磁気理論を理解してないと MKSA 単位系を理解できま せん.さらに Practical Unit System の部分が,ただでさえ理解しずらい電 磁単位系を捻って掻き回してくれます.

●電磁単位系を理解の前提としての電磁気学 単位系を理解するためには,その背景にある理論を理解していなければなり ません.でも電磁気学は難しい理論です.電磁気の世界を記述する Maxwell 方程式は偏微分方程式です.しかも互いに関連しあう四つの方程式 です.電磁気学は誰にでも理解できる理論ではありません.

さらに,四つの Maxwell 方程式は Lorentz 力の方程式によって力・エネル ギーとの結び付けられます.電磁気の世界が力学の世界と接続されます.こ の接続を利用して電磁気の単位系は理論的に構築されます.F. Gauss と J. C. Maxwell により emu 単位系(absolute 単位系)として纏められました.

● Practical Unit System でも電磁気学から導かれた理論的な単位系は学者のための単位系です.電気・ 電子分野の設計に携わる多くの設計者は Maxwell 方程式ではなく Ohm の法 則で設計しています.単位系も Ohm の法則で理解しています.そのような単 位系が Practical Unit System として, emu 単位系と平行して,最初から 使われていました.実務では Practical Unit System が最初から使われまし た.emu 単位系が Practical Unit System を理論付けていました.

MKSA 単位系は,emu 単位系を基本に Practical Unit System を付け加える 形式で纏められています.でも実用性を優先して理論的な見通しが悪くなっ たぶん,不必要に複雑になりました.理解が難しくなりました.

● 説明されない MKSA 単位系 MKSA 単位系は,電磁気学を理解した後で体系的に説明されて,やっと理解で きる単位系です.でも現実には電磁気学の教科書の最初で電流の定義が中途 半端に解説される程度で済まされてしまっています.SI 単位系の規格書は結 果を纏めてあるだけです.MKSA 単位系を定めた理由は書いてありません.電 流定義で 1e-7 `newton の値を使う理由さえ示しません.MKSA 単位系の体系 的な説明が面倒なためだと私は思っています.その面倒な説明を敢えて行う のが本論の主題です.

MKSA 単位系を理解するには emu 単位の理解から始めるのが早道です. MKSA 単位系は,単純で奇麗な emu 単位系に Practical Unit System の捻り を追加して解り難くした単位体系だからです.ですから emu 単位系の説明 の後に Practical Unit の捻り部分を明示すしながら MKSA 単位系を構成す る手順で話を進めます.電磁気理論の知識があることを前提に,歴史的経緯 にも言及しながら,なぜ現在の MKSA 単位系になったのかを説明します.

● 避けられない MKSA 単位系 現在では電磁気学で現れる物理量を表現するために MKSA 単位系使わざるを えません.MKSA 単位系を使わずには設計活動などできません.コンデンサや コイルの値さえ MKSA 単位系無しでは表現できません.MKSA 単位系は不必要 に複雑になっているからといって,今さら別の単位系に逃げられません.我 々は MKSA 単位系を正しく理解する以外の選択肢はありません.この文章の 目的は MKSA 単位系の正しい理解です.

Re: 解りにくい MKSA 単位系となった経緯

小林@那須 さんのレス (2007/05/25(Fri) 16:19)

◆◆ 電磁単位系の歴史(absolute/practical 単位系)◆◆ MKSA 単位系は emu 単位系を基本に Practical Unit System の捻りを咥えて 出来上がりました. この MKSA 単位系を理解するためは,両者が使われてき た背景・電磁気の歴史につい知っておくことも重要です.下に電磁気に関係 する主だったイベントを歴史年表として示します.

1800 年 Volt の電推 1804 年 蒸気機関車の発明 1820 年 Oerstead, Ampere が,電流の流れる電線の間に力が発生すること<br>を発見した 1826 年 Ohm の法則の発表 1831 年 M. Faraday の電磁誘導の法則 1833 年 F. Gauss が absolute 単位系を “Intensitas vis magneticae terristis in mensuram absolutam revocata.”論文で提唱した. 1835 年 モールス信号と電信線を使った交信が始まった 1836 年 ダニエル電池の発明 1858 年 一回目の大西洋横断海底通信ケーブルを布設 1863 年 BAU(Britsh Association Unit) で J. C. Maxwell が中心となり emu 単位系を定めた.Pt-Ag 合金を使って emu 単位抵抗の 10^9 倍 ≡ 1 `ohm の practical な意味の標準抵抗を定めた 1865 年 Maxwell 方程式の発表 1867 年 明治維新:大政奉還 1872 年 BAU が抵抗の単位を `ohm と呼ぶことにした. 1876 年 A.G, Bell と E.Gray が電話を発明した 1879 年 エジソンが白熱電球を発明した 1881 年 absolute/practical system of units が First International Congress of Electricians で定められ `volt, `ohm, `ampere, `coulomb, farad の単位が承認された 1882 年 エジソンの電力システムが稼動を始めた. 1889 年 Second International Congress of Electricians `joule, watt の単位が承認された. 1892 年 ウェストン標準電池 1.0183`volt at 20 celsius 1892 年 BAU が電流の silver ampere 定義を定めた 1892 年 O. Heaviside が有理化単位系を提唱 1892 年 Lorentz 力を含む論文を H.A Lorentz が発表した 1893 年 international ohm (重さが 14.4521`gram で,長さが 106.3cm の水銀の 0 度C における抵抗)を定めた.また international volt (Clark セルが 15度C で 1.434`volt) を定めた. 1897 年 J.J. Thomson が電子を発見した 1902 年 G. Giorgi が MKS に R を追加した有理化電磁単位系を提唱した 1904 年 力の単位 `newton が Robertson によって提案される 1905 年 特殊相対論の発表 1960 年 SI(International System of Unit) 単位系が定められる

上の年表を眺めていると ・Maxwell 方程式に理論付けられ学術的な emu unit(absolute unit) system と ・Ohm の法則:V=R I を元にする,素人にも分る実用的な Practical Unit System という二つの単位系が最初から並存していたことが分ります.

emu 単位系を定めたときに,Pt-Ag 合金による標準抵抗が同時に作られ配布 されました.その抵抗値は emu 単位系の 1 abohm ではなく,現在の 1 `ohm の値でした.(もともと 1abohm = 1ナノ`ohm です.こんな小さな抵抗 値の標準抵抗は作れません.やはり emu 単位系は理論上の単位系です.) で すから最初に電磁量の単位系が定められたときから実用単位系 Practical Unit System が並存していたわけです.Practical Unit Sytem は emu unit system によって理論付けられながら,より精密な電流・抵抗・電圧値 の実用的:Practical な単位定義の改定が繰り返されました.水銀柱による 単位抵抗が, またsilver ampere による単位電流が定義されました.

そして Practical Unit System でモーターや発電機が設計されるようになる と watt == `volt * `ampere の単位が,`joule `newton の単位が使われる ようになっていきます.これは機械系の設計で cgs 単位系と並行して `meter, `kg, `sec 単位系も使われるようになってきたことを意味します. これらの歴史背景の結果として MKSA 単位系に至ります.

Re: 解りにくい MKSA 単位系となった経緯

小林@那須 さんのレス (2007/05/25(Fri) 16:22)

◆◆ emu/absolute unit system ◆◆

emu unit system は absolute unit system と呼ばれることもあります.最 初に定められた電磁量の単位系ですが,奇麗にまとまっており理解しやすい 単位系です.MKSA 単位系も殆ど同じ筋立てで構成されます.ただし MKSA 単 位系は実用単位系 Practical Unit System への妥協と有理化の二つが入り込 みます.その分だけ解り難い単位系です.まず単純な emu 単位系で,電磁量 の理論的定め方を理解しましょう.

● absolute の意味 absolute 単位系は数学者として有名な F. Gauss に始まります.電磁単位系 を質量,長さ,時間のみから理論的に定めることを意味します.「指定ゲー ジ,指定長さの電信線の抵抗,標準電池の電圧などの特定物質にしない電磁単 位の定義である」ことを意味します.

全くの推測ですが absolute の形容詞には価値判断も入っていると思います. 価値判断を含めなければ natural unit system とでもするはずです. Gauss の気持ちを下世話に代弁してみます.「俺の定めた absolute 単位系 は自然:神の意志に沿ったものだ.人間の使っている電信線などを基準にし てない.どうだ.」---- 皆様はどのように思われるでしょうか.

● emu 単位系 absolute unit syste emu unit system は F. Gauss の考え方を受け継ぎました.1863 年に British Association Unit で J. C. Maxwell が中心となって定めました. MKSA 単位系も emu 単位系の考え方の多くを受け継いでいます.MKSA 単位系 を理解・体得するには,大多数の方にとって emu 単位系の理解から始めたほ うが楽な道筋です.emu 単位系で記述する Maxwell 方程式のほうが単純だか らです.

なお emu 単位系での単位電流/電圧/抵抗値は abampere/abvolt/abohm で表現されます.

● emu unit system での電流定義 emu unit system では単位電流を下のように定義します.

単位電流とは 1`cm だけ離れた,並行する二本の直線電流 1`cm あたりに 2 dyne の力が発生する電流である ---- 1 abampare の定義 ---- この emu 単位系での単位電流の定義は,もう一捻りされて,現在の MKSA 単 位電流の定義, 2e-7 `newton のマジック・ナンバーに入り込んできます. これについて Practical Uniit System のところで,再度言及します.

●emu unit system での Maxwell 方程式と Lorentz 力 cgs emu 単位系での Maxwell 方程式は下のようになります.この Lorentz 力の方程式を使うことで, emu unit system での基本単位電流・基 本単位電圧を absolute に定義します.この二つを組み合わせて,他の電磁 物理量の組立単位を導きます.

div E = `c^2 4π ρ ------------------ (emu-1) div H = 0 ---------------------------- (emu-2) rot E = -1 ∂H/∂t ------------------- (emu-3) rot H = 4π j + 1/`c^2 ∂E/∂t ------- (emu-4) 物質内 H = 空間 H + 4π M ------------ (emu-5) 物質内 E = 空間 E + 4π `c^2 P ------- (emu-6)

Lorentz 力 dF = ρ E + I dl x H ------ (emu-7) 上の Maxwell 方程式には 磁束/電束密度 D/B や 真空の誘電率/透磁率`ε 0, `μ0 がありません.光速度 `c が explicit に現れています.物質が介 在するとき P や M が入ってくるだけです.この Maxwell 方程式の方が MKSA Maxwell 方程式より容易に理解できます.皆様は如何でしょうか.

(emu-1),.. (emu-6) の六つの式が Maxwell 方程式であり電磁量の世界の運 動を記述しています.(emu-7) の式は Lorentz 力を表します.これにより「 電磁量の世界」と「質量の運動を記述する力学量の世界」を結び付けていま す.逆に (emu-7) の式による力学量の世界との結び付きを利用することで, 電磁量を absolute に定義しています.水銀柱の抵抗などの人間が恣意的に 定めた量ではない,自然法則によって定めた単位量にしています.

力学量の世界Lorent 力電磁量の世界 </b> F = m αF = q E + j x H四つの Maxwell 方程式 </b>

(`meter,`kg,`sec) の基本単位運動する電荷と <E,H> の間にdiv E = c^2 4π ρ 物理量と組み立て単位物理量の働く 力div H = 0 世界 rot E = -1 ∂H/∂t

rot H = 4π j + 1/c^2 ∂E/∂t

図 Lorenzt 力による力学量と電磁気量の接続

ただし,Lorentz 力から単位電流を absolute に定めるためには,電荷が電 流の時間積分であることを知っている必要があります.Maxwell 方程式から 導かれる電磁場と,運動する電荷の間の式(Lorentz 力, Biot-Savart law: ビオ・サバールの法則を理解している必要があります.それの直線電流への 応用を知っている必要があります.

q = ∫ I dt dH = q v × r/abs(r)^3 F = 2 I I'/abs(r)

このように absolute な電流量の定義を理解するには,電磁気学を理解して いなければなりません.まだ Maxwell 方程式もできていない時代に,一般の 電気エンジニアが このような高度な電磁単位系を理解できるはずもありませ ん.このためもあったのでしょう,当初から Practical Unit System が並行 して使われ MKSA 単位系に至ります.

●Lorentz 力による電圧の定義 Lorentz 力の電場:E の側での力学量との結びつきを使って abvolt も absolute に定義します. そのために,Lorentz 力の式を,磁場が 0 である ときの式に変形します.

F Δl = q E Δl <==> ΔE = q ΔV

そして下の単位電圧を定義します.この単位電圧は abvolt( absolute volt) と呼ばれます.

単位電圧とは単位電荷に 1erg = 1`cm^2 `gram `sec^-2 のエネルギーを与える電位差である ---- 1 abvolt の定義 ----

このように定義した電圧から導かれる電場 abvolt/`cm の物理量で Maxwell 方程式を記述すると (emu-1) の電荷量と電場の関係式に光速度の自 乗: `c^2 の比例係数が入り込んできます.(これにより光が電磁波だとする 強い根拠になりました.) 「電流:abampere( absolut ampere)」と「電圧abvolt(absolute volt)」二つ の基本単位が absolute に定義されれば,残りの電磁量は この二つの基本単 位の組み合わせからなる組み立て単位として扱えます.

ここで emu 単位系(absolute 単位系) では,電流だけでなく 電圧も absolute に定義されていることに注意してください.Lorentz 力の j × H により磁場の側の基本単位:電流を,q E により電場の側の基本単位:電 圧を absolute に定義しています.MKSA 単位系では電流の定義が前面に出 すぎて電圧も基本単位であることが見逃されています.電流が誘導単位だと するならば,電流定義から,磁場の無いときの Lorentz 力 F = q E が導け ねばなりません.それは無理です. emu 単位系では F= q E で電場の側の単 位系を定めることで,電場の世界と磁場の世界を接続する個所で `c^2 が出 てくる構成になっています.q = ∫jdt だからといって電圧が組み立て単位 になるわけではありません.間違えないで下さい.

● emu 単位系の単位次元 emu 単位系での電磁物理量の単位次元の表記は 0.5 の べき乗を使う意味で 異質です.`cm, `gram, `sec の基本単位に対して,0.5 のべき乗も使って単 位次元の体系を表します.「absolute unit system の意味」すなわち「 `cm `gram `meter の力学量の基本単位から導いた意味」を込めているためで しょう,

単位電流の定義から分るように emu 単位系での電流は基本単位ではなく力学 の基本単位からの組み立て単位です.二本の直線電流に働く力によって基本 単位電流を定義したのですから,電流の単位次元は [dyne]^0.5 = `cm^0.5 `gram^0.5 `sec^-1 となります.単位電荷 abcoulomb の単位次元は [∫I dt] = cm^0.5 `gram^0.5 です.

単位電圧 abvolt の単位次元は下のようになります.

1 erg = 1 abcoulomb * 1 abvolt [1 `cm^2 `gram `sec^-2] = [1 abcoulomb]* cm^0.5 `gram^0.5 ∴ [1 abcoulomb] = `cm^1.5 `gram^0.5 `sec^-2

単位抵抗 abohm の単位次元は下のようになります.

[R] = [V/I] = cm^1.5 `gram^0.5 sec^-2 /(`cm^0.5 `gram^0.5 `sec^-1) = `cm `sec^-1

それにしても抵抗の単位次元が `cm `sec^-1 で皆様は納得できますでしょうか.`cm `gram `sec だけによる absolute な電流定義から,このような単位次元になることは理屈の上では理解できます.でも直感が受け付けてくれないでしょう.`cm `sec^-1 は速度の単位次元です.そして抵抗量と速度量は無関係です.抵抗と速度を比較したり足し合わせたりできません.

このような単位次元の定め方は,一般の人間では追従できません.電流の単 位次元を cm^0.5 `gram^0.5 `sec^-1 では線形関係さえ崩れています.普通 の人間が体得・理解できるのは線形関係にある物理量に限られます.一方で オームの法則 V = R I は線形です.(より厳密には bi-linear です.) 二つ の基本量,例えば `ampere と `volt を定めれば,後の抵抗や,コンデンサ 容量などの電磁物理量は線形な関係で導かれる組み立て単位として定めてい けます.2 dyne の力による電流定義は,電磁気の世界と,`meter, `kg, `sec の力学の世界を学術的に結び付けている式と理解したほうが良さそうで す.電流の単位次元 `cm^0.5 `gram^0.5 `sec^-1 から他の電磁量を組立単位 によって一歩ずつ導いていくのは無理です.

私は天才 J. C. Maxwell でさえ電磁量の単位次元は Ohm の法則から理解し ていたと思っています.彼も普段は `cm, `gram,`sec のべき乗の組み合わせ で表す emu 単位次元では考えていなかったと思います.0.5 のべき乗が入り 込んでくる emu 単位次元は理論上の単位次元とみなし,実際に使う単位系と は区別していたはずです.emu 単位系を定めたとき abohm とは別に,現在の 1 ゛ohm と同じ抵抗値を持たせた標準抵抗を Pt-Ag 合金で作成し配布して いたことが,その一つの根拠です.

● emu 単位系の `dyne^0.5 `cm `gram `sec 単位次元表示 cm `gram `meter で表すと解り難い電磁量の単位次元も dyne^0.5 を導入し てやると奇麗に整理できます.

もともと<a href="./EMUnit.htm#ampere definition">電流定義</a>は二本の 直線電流の間に働く単位長当たりの力が I^2/r に比例することで行いました. ならば電流の単位次元は dyne^0.5 と見なせます.電荷:∫Idt の単位次元 は dyne^0.5 `sec になります.f = q E から電場の単位次元は dyne^0.5 `sec^-1 となります.このようにして導かれる emu 単位系での単位次元の表 を下に示します.

物理量`dyne^0.5 `cm `sec`cm `gram `sec 電流`dyne^0.5 `cm^0.5 `gram^0.5 `sec^-1 電荷`dyne^0.5 `sec`cm^0.5 `gram^0.5 電束密度`dyne^0.5 `cm^-2`sec`cm^1.5 `gram^0.5 電場`dyne^0.5 `sec^-1 `cm^0.5 `gram^0.5 `sec^-2 電圧`dyne^0.5 `cm `sec^-1 `cm^1.5 `gram^0.5 `sec^-2 磁荷`dyne^0.5 `cm `cm^1.5 `gram^0.5 `sec^-1 磁場`dyne^0.5 `cm^-1`cm^-0.5 `gram^0.5 `sec^-1

MKSA 単位系では,この dyne^0.5 による単位次元の表現を apmere による表 現に変えて使われます.ですから MKSA の単位次元で `ampere が出てきたら, それを (1e-7 `newton)^0.5 の意味に解釈することで,`ampere より少し ま しな物理的意味を与えられることがあります.

なお MKSA 単位系では, MKSA の名前に引っ張られて,電圧:`volt が電流: `ampere と同様な基本単位であることが見え難くなっていますが, dyne^0.5 での単位次元表現からも volt が基本単位であることが言えます. f = q E:ΔE = q ΔV から電圧の単位次元が dyne^0.5 `cm `sec^-1 と導け ます.ここで 1 - 0.5 = 0.5 の関係があるため dyne^0.5 だけで済ませられ ています.でも もし電磁量の世界と力学量の世界 f = q^1.3 E のように結 び付けられていたら dyne^0.5 だけで済ませられなくなります.単位次元を 整数の べき乗にしておくためには `volt の基本単位が必要となります. (f=q^1.3 E のようにすると 係数 `c の単位次元が速度でなくなってなって しまいます.クーロンの法則も成り立ちません.変てこな世界ですが数学的 には存在しえます.)

● 電場系の単位と磁場系の単位の接続 emu 単位系では,Lorentz 力により単位電流と単位電圧を absolute に定義 したために,電場系の世界と磁場系の世界をを等式で結び付けようとすると き,光速度 `c の 換算係数が入り込む様子を dyne^0.5 の単位次元表記を使 って見てみましょう.

● emu 単位系での 基本単位と組立単位 上の基本単位電流と基本単位電圧の物理量の次元を使うと div E = c^2 4 ` π ρ より c の単位次元が光速度であることが,下のように簡単に導けます. また f = q^1.3 E だったら c^2 の単位次元が「速度^2」にならないことも 解ります.

[div E] = c^2 [ρ]
↓↑
(abvolt/`cm)/`cm = c^2 (abampere `sec)/`cm^3
↓↑

dyne^0.5 `cm^-1 `sec^-1 = c^2 dyne^0.5 `sec `cm^-3

∴ [c^2] = cm^2 `sec^-2 = `[cm/`sec]^2

そして基本単位である電流から組み立てられた磁場の時間変化と基本単位で ある電圧との間に電磁誘導の法則が成り立ちます.

磁場側 ┌→ 電流基本単位の定義 ──────────→ 磁場 H:ampere `meter^-1
│└→ 電荷組立単位:`coulomb=`ampere `sec の組立単位の導出
Lorentz 力 ─┤└→ q/r^2:Coulomb の法則↑
│ ↑emu 単位系では 4`π c^2 ↓emu 単位系では <b>1</b> │┌→ 電場組立単位:`volt/meterrot E = -∂H/∂t

電場側 └→ 電圧基本単位の定義V = -4`π d(∫Hds)/dt = -4`π dΦ/dt

すなわた電流基本単位から導かれる組立単位の世界と,電圧基本単位から導 かれる組立単位の世界との間が <4`π `c^2, 4`π > で結び付けられ ます.

一方で MKSA 単位系では `c^2 は `ε0/`μ0 は誘電率/透磁率の単位次元に なってしまいます.速度^2の単位次元ではなくなってしまいます.MKSA 単位 系では,電場系の物理量と磁場系の接続が div E = `c^2 4`π ρ の式では なくなります. D = `ε0 E の側に隠されてしまいます.`ε0 div E = div D = ρ では電場系の物量と磁場系の物理量の関係式であることが隠れて しまいます.1`meter 離した 1`coulomb の電荷どうしに働く力が 90 億 `newton であることが見えなくなってしまいます.`coulomb が ∫I dt で表 される電流・磁場系の単位であることが認識されていれば,電荷どうしに働 く電場系の力を求めるとき c^2 が入ってきて極端に大きな値になることが直 感的に分るのですが,それが ε0, μ0 で隠されてしまいます.MKSA 単位系 は電磁気学を理解するためには不適切です.ですから自前の単位系を導入す る電磁気の教科書が何冊も書かれることになります.

今までの議論から下のことに同意してもらえると思います.

・ volt と `ampere を基本単位とする電磁量の世界が独立して存在して
おり, Lorentz 力で力学量の世界と繋がっているとみなせます.
・ 単位次元の側面から見ると,「電流と力:[`ampere^2] = dyne」と「
電圧とエネルギー:[`volt `ampere `sec]=[`dyne]`cm」で,電磁量の 世界と力学量の世界が繋がっているとみなせます.
・ 電流の単位系の世界と電圧の単位系の世界が 4`π <`c^2,
1> の変換係数で結びつきます.

MKSA 単位系では dyne^0.5 の単位次元を ampere で表した単位次元表記を使 います.そのため `volt が `ampere と同様に基本単位であることが隠れて しまっています.MKSA 単位系での ampere の単位次元の表示は (1e-7`newton)^0.5 の別表記にすぎないことを理解ください.

Re: 解りにくい MKSA 単位系となった経緯

小林@那須 さんのレス (2007/05/25(Fri) 16:22)

◆◆ Practical Unit System: 実用単位系 ◆◆ J.C Maxwell が emu 単位系を定めた 1863 年には,既に電圧/電流/抵抗の 電磁量は Ohm の法則によって理解されていました.実務設計で使われていま した.既に大西洋を横断する通信線さえ敷設されていました.でも電磁単位 系が統一されていませんでした.そのために大西洋横断通信ケーブルでは大 きなトラブルが発生したりしていました.まだ Maxwell 方程式はできており ません.

通信装置の仕様を定めたエンジニア達は,既に存在している電池により電圧 量の概念を把握していました.数マイルの長さの通信線の抵抗値として抵抗 量の概念を把握していました.モールス符号受信機の鉄片を引き付ける電流 量の概念を把握していました.この三つの量をオームの法則で組み合わせて, モールス通信装置の設計していました.

さて emu 単位系によって 電流:abampere,電圧:abvolt,抵抗:abohmの電磁 量を力学量 `cm, `gram, `sec から absolute に定められました.でも Ohm の法則で設計しているエンジニア達には Maxwell 方程式を前提とする emu 単位系は難しすぎます.しかも abvolt, abohm の基本単位量が小さすぎ て現実の設計には使えませんでした.これらを現在の `volt, `ohm で表すと 下のようになります.こんな absolute な単位系では実用になりません.

1abvolt = 0.01 マイクロ `volt ---- 電波がマイクロ `volt/`meter で扱われます 1abotm = 1 ナノ`ohm ------ こんな小さな抵抗値を使うのは超伝導での残留抵抗ぐらいです

そのため abamprere, absvolt, abohm とは別に practical な基本量を定め る必要がありました.そして 1 abvolt の 10^8 倍を proctical な単位電圧 と定めました.1 abvolt を 10^8 倍した電圧がボルタの電池などの金属の接 触電位差による電圧に近くできるからです.この practical な単位電圧が, 現在使われているのと同じ 1`volt の単位電圧です.1 abohm の 10^9 倍の 値を実用的な単位抵抗と定めました.その当時に使われていた通信線の抵抗 値に近い値を選択するため 10^9 を選択しました.その抵抗値は現在使われ てる 1`ohm の単位抵抗と同じです.この practical な単位抵抗値を持たせ た標準抵抗を Pt-Ag 合金で作り emu 単位系の策定と同時に配布しました. このように practical な単位電圧と単位電流が abvolt/abohm の 10^8/10^9 とされたため,practical な単位電流は V = R I より 1 abampere の 10^-1 になってしまいました.この単位電流量は現在の 1`ampere と同じです.

元々 `volt, `ohm, `ampere は物理量の単位ではなく,現在の Mega/Giga な どと同様な,absolute 単位に対する桁数の単位だったそうです. " http://alpha.montclair.edu/~kowalskiL/SI/SI_PAGE.HTML" ここに次のよう に書いてあります.「When units called ohm, ampere, and volt were introduced to satisfy practical needs of electrical engineers, they were meant to be integral multiples of the corresponding em units. Thus, one ohm was meant to be 10^9 em units of R, one ampere was meant to be 10^-1 em units of I, and one volt was meant to be equal to 10^8 em units of potential difference,」訳してみます.「ohm ampere volt の呼称は電気エンジニアたちによる実用性の要求に配慮して導 入されました.それらは emu 単位系の単位抵抗/電流/電圧に対する倍数を 意味していました.1 ohm は emu 単位抵抗の 10^9 倍を意味していました. ampere は emu 単位電流の 10^-1 を意味していました.1 volt は emu 単位 電位差の 10^8 を意味していました.」

上の英文は `volt, `ohm, `ampere が桁数の意味だったと書いていますが, 当時のエンジニア達は `volt, `ohm, `ampere を最初から practical な意味 での単位だと解釈していたと推測されます.まだ Maxwell 方程式もできてい ない時代に,J. C. Maxwell が定めた学術的な absolute 単位系の意味が, Ohm の法則で考えている当時のエンジニア達に的確に理解されたとは思えま せん.``cm^0.5 `gram^0.5 `sec^-1 と表される電流の単位次元が実務畑のエ ンジニアに受け入れられたとは思えません.エンジニア達の共通言語として の practical な単位電流,単位電圧,単位抵抗を学者達が決めてくれたから, それを実務で使っただけでしょう.そのとき直ぐに`volt, `ohm, `ampere は 桁数の意味ではなく単位の意味と解釈されるようになったと私は推測します. 皆様はどう考えますでしょうか.

ここで `ampere が 1/10 の意味であったことに二つの意味で注目せねばなり ません.一つは MKSA 単位系における 2e-7 `newton が導かれることです. もう一つは emu 単位系を定めたときに Maxwell が 抱いていた電磁単量の 把握の仕方が伺えることです.

absolute amprere の 1/10 が practical な電流の基本単位だとする考えは 現在でも MSKA 単位系の 2e-7 newton に受け継がれています.1 absolute ampere を流している 1`cm あたりに働く力が 2 `dyne でした.2`dyne = 2e-5 `newton です.MKSA 単位系の電流定義で出てくる力:2e-7`newton よ り二桁小さい理由は 桁数調整数 `ampere:1/10 の電流が二本の電製に流れて いるせいです.このような経緯で emu 単位系の電流定義が MkSA 単位系での 電流定義に現れるマジック・ナンバー 1e-7 が定まりました.

ampere を 1/10 の意味にしたことは,天才 J.C. Maxwell さえも電磁物理量 をオームの法則から把握していたことを伺わせます.もし J.C. Maxwell が 電磁物理量を {1 abampere] == cm^0.5 `gram^0.5 `sec^-1 の 0.5 べき乗が 入る単位次元で理解・体得していたのならば,1 abampere と practical な ampere を同じにしたはずです.一桁ぐらい誤差の範囲ですから `ampere に 1/10 の意味を与える必要はありません.1`volt を 10^8 abvolt にする代 わりに 10^9 abvolt にするだけで済みます.そうすれば `volt も抵抗のと きと同じ倍率にできます.どちらも Giga:10^9 の桁にできます.J.C. Maxwell も `ampere の基本単位量の値に拘っていなかったから,即ち「 Maxwell も日常的には Practical Unit System で考えていたから,当時使わ れていた電池の電圧と通信線の抵抗に一番近い桁数を素直に選択した」と私 は思っています.この点について否定・肯定するような事実・資料がありま したら御教え願います.

当時の通信線の設計で使っていた電圧値/抵抗値/電流値に合わせて 1`volt==10^8 abvolt, 1`ohm==10^9 abohm, 1`ampere==10^-1 abampere を選 択したことは,MKSA 単位系で `gram ではなく `kg を選択さざるをえなかっ たことに繋がります.1`volt の電圧で 1`ampere の電流を流したとき,一秒 あたりに発生するエネルギー:発熱量は 1`volt * 1`ampere = 1watt = 1`joule/`sec です.1`joule = 1`newton `meter/`sec = 1`kg `meter^2 `sec^-3 です.ですから Practical Unit System: `volt, `ampere を使って モーターや発電機などを設計するとき `meter `kg `sec を使って力やエネル ギーを表現しておかないと,余分な比例係数に付きまとわれます.<a href="./EMUnit.htm#chronological table">先に示した電磁気年表</a>で「 1863 年 emu 単位系 ---&gt 1889年 `joule の単位 --> 1904 年 `newton の単位」と MKSA 単位でも使われる単位が導入されていく様子が, この推測を裏付けてくれます.ちなみに 1 abvolt * 1 abampere = 1 erg/sec です.もし J.C. Maxwell が abampere に拘って practical `volt == 10^9 abvolt を選択していたら MKSA 実用単位系は違った形になっ たでしょう.`meter, decaKiloGram, `sec 単位系などとなったのでしょうか. それとも三桁刻みにならないため,比例係数を使いながら cgs 単位系でモー ターや発電機の設計を続けたのでしょうか.皆様はどのように考えますでし ょうか.

Re: 解りにくい MKSA 単位系となった経緯

小林@那須 さんのレス (2007/05/25(Fri) 16:23)

◆◆ MKSA 単位系への準備 ◆◆ MKSA 単位系への準備のために,電流定義での力が 2 dyne ではなく k 倍の 力:2 k dyne となったときを考えてみましょう.すなわち単位電流が k^0.5 倍になった世界での Maxwell 方程式を導きましょう.(なお,ここで k は物理的には無次元の比例係数であることを覚えておいてください.後の MKSA 単位系での `ε0, `μ0 の単位次元の議論で,ここでの話を生し返し ます)

直線電流同士の間に働く力が 2 k dyne であり

F = 2 k I I'/!abs(r)

ですから,新単位電流:newAmpere は abampere の k^0.5 倍になります.逆 に newAmpere で計った新電流値は abampere で計った電流値の k^-0.5 倍 になります.

dH = dI × r/(!abs(r)^3 ) # dH, dI, r は vector

ですから,新しい単位系で計った磁場の数値も k^-0.5 倍となります.

単位電流が k^0.5 倍されるのですから新単位電荷も k 倍になります.です から新単位系で数値化した電荷量は abcoulomb の k^-0.5 になります.新単 位系で数値化した電磁量の関係を Maxwell 方程式で表すと下のようになりま す.

div k^-0.5 E newVolt/`meter = 4`π c^2 k^0.5 ρ newCoulomb ∵ k^-0.5 E newVolt/`meter == E abvolt/`cm

k^0.5 ρ newCoulomb == ρ abcoulomb

H も I と同様に k^0.5 倍されます. dH newWeber/`cm^2 = dI newAmpere × r/!abs(r)^3

即ち rot k^-0.5 H newWeber/`cm^2 = 4`π k^0.5 j + 1/`c^2 k^0.5 ∂(E newVolt/`cm)/∂t

すなわち直線電流に働く力 2 k dyne で単位電流を定義した新電磁単位系で 記述した電磁量の数値の間には下の Maxwell 方程式が成り立つことになりま す.また点磁荷が r の位置に作る磁場 H の強さが H = qm/r^2 であること より磁荷の数値も H と同様に k^-0.5 倍に変化して測定されます.M も H と同様に k^-0.5 倍に変化します.元の Maxwell 方程式での電磁量の関係式 を満たしつづけるためには M を k^0.5 倍にしてやらねばなりません.ここ で M を磁場 H を生成する磁荷の意味で Mh と表すようにしておきます. MKSA 単位系では磁場とは別の単位次元を持つ物理量として磁束密度が導入さ れ,磁荷も磁束密度を生成するものと大きく変えられるためです.

div k^-0.5 E = 4`π c^2 k^0.5 ρ ------------------------ (kemu-1) dir k^0.5 H = 0 ---------------------------------------- (kemu-2) rot k^-0.5 E = -k^0.5 ∂H/∂t --------------------------- (kemu-3) rot k^0.5 H = 4`π k^0.5 j + 1/(c^2) k^-0.5 ∂E/∂t ---- (kemu-4) 物質内 k^0.5 H = 空間 k^0.5H + 4π k^0.5 Mh ------------- (kemu-5) 物質内 k^-0.5 E = 空間 k^-0.5 E + 4π c^2 k^0.5 P ------- (kemu-6)

dF = ρ E + I dl x H ------------------------------------ (kemu-7) dH = dI × r/!abs(r)^3 # dH, dI, r は vector

同じ式ですが,もう少し MKSA 単位系での Maxwell 方程式に近い形式で表します.

div 1/(4`π c^2 k) E = ρ ------------------------------ (kMKS-1) dir k H = 0 -------------------------------------------- (kMKS-2) rot E = -k ∂H/∂t -------------------------------------- (kMKS-3) rot 1/(4`π) H = j + 1/(4`π c^2 k) ∂E/∂t ----------- (kMKS-4) 物質内 H = 空間 H + 4π Mh ------------------------------ (kMKS-5) 物質内 1/(4`π `c^2 k) E = 空間1/(4`π `c^2 k) E + P ---- (kMKS-6)

dF = ρ E + I dl x H ------------------------------------ (kMKS-7) dH = dI × r/!abs(r)^3 # dH, dI, r は vector

k は無次元の比例係数

-------- 2k dyne の力で定義した電磁単位系で成り立つ Maxwell 方程式 ----------

上の式で k は無次元の比例係数です.単位距離だけ離した直線電流の単位長 さ当たりに働く力を 2 k dyne としたからです.このことを MKSA 単位系を 論じるときに使います.

Re: 解りにくい MKSA 単位系となった経緯

小林@那須 さんのレス (2007/05/25(Fri) 16:23)

◆◆ MKSA 単位系 ◆◆ 「2k dyne の力で定義した電磁単位系で成り立つ Maxwell 方程式」は 2k `newtonの力で定義した電磁単位系で成り立つ Maxwell 方程式と読み直せま す.MKSA 単位系で k は 1e-7 の無次元数です.これに有理化とε0 μ0 を 追加してやれば MKSA 単位系になります.でも MKSA 単位系では μ0 を無次 元の比例係数から単位次元付きの係数にします.電磁量の単位次元の解釈を 変えてしまいます.これが MKSA 単位系を解り難くしています.

●● 有理化 単位系 有利化とは Maxwell 方程式から 4`π の係数をなくすことです.点電荷が r だけ離れた位置に作る電場の強さを q/(4π r^2) と比例するとみなすこと で, Maxwell 方程式から 4π を無くすことと等価です. div 1/(4`π c^2 k) E = ρ は点電荷が単位距離の位置に作る電場が下の式で表されるこ と等価です.

div 1/(4`π c^2 k) E = ρ
↑↓

E(r) = q r/(4`π c^2 k) abs(r)^3 # r は vector

電場と同様に磁場についても微小電流が作る磁場が dH = dI × r/(4`π! abs(r)^3) 比例するとして有利化してやります.磁場 H の数値が 1/(4`π) 倍だけ小さくなるわけです.Maxwell 方程式上では H が 4`π 倍だけ大き くしてやることで物理量の関係式を普遍に保ちます.下の Maxwell 方程式に なります.

div 1/(4`π c^2 k) E = ρ ------------------------------ (rkMKS-1) dir (4`π k H) = 0 ------------------------------------- (rkMKS-2) rot E = -∂(4`π k H)/∂t ------------------------------- (rkMKS-3) rot H = j + 1/(4`π c^2 k) ∂E/∂t -------------------- (rkMKS-4) 物質内 (4`π H) = 空間 (4`π H) + 4π Mh ---------------- (rkMKS-5) 物質内 (4`π k H) = 空間 (4`π k H) + 4`π k Mh --------- (rkMKS-5') 物質内 1/(4`π `c^2 k) E = 空間 1/(4`π `c^2 k) E + P --- (rkMKS-6)

dF = ρ E + I dl x 4π k H ------------------------------ (rkMKS-7) 4`π k dH = 4`π k dI × r/(4`π!abs(r)^3) # dH, dI, r は vector

注意:k は無次元の比例係数

2k `newton の力で定義した電磁単位系で成り立つ Maxwell 方程式 1

2k `newton の力で定義した電磁単位系で成り立つ Maxwell 方程式」で ε 0 = 1/(4`π `c^2 k), μ0 = 4`π k, M = 4`π k Mh と置いてやれば殆ど MKSA 単位系で記述した Maxwell 方程式です.

div `ε0 E = ρ ------------------------------------ (rMKS-1) dir `μ0 H = 0 ------------------------------------- (rMKS-2) dir H = 0 ------------------------------------------ (rMKS-2') rot E = -∂(`μ0 H)/∂t ----------------------------- (rMKS-3) rot H = j + ∂(`ε0 E)/∂t ------------------------ (rMKS-4) 物質内 (`μ0 H) = 空間 (`μ0 H) + M ----------------- (rMKS-5') 物質内 ε0 E = 空間 `ε0 E + P ---------------------- (rMKS-6)

dF = ρ E + I dl x 4π k H -------------------------- (rMKS-7) `μ0 dH = `μ0 dI × r/(4`π!abs(r)^3) # dH, dI, r は vector 但し `μ0 = 4`π k, `ε0 = 1/(4`π c^2), k = 1e-7

注意:μ0 は無次元であり `ε0 は 「1/速度の自乗」の単位次元を持つ比例係数 2k `newton の力で定義した電磁単位系で成り立つ Maxwell 方程式 2

上の式で B = `μ0 H, D = `ε0 E と置き換えれば MKSA 単位系における Maxwell 方程式と瓜二つです.でも `μ0 は無次元の比例係数です.ただ電 磁誘導により磁場 H の時間変化が電圧を発生させるとき B = `μ0 H = 4`π k H と `μ0=4`π k 倍だけ大きくした磁場を使うとしている点で MKSA 単 位系での Mawell 方程式と異なっています.まだ `μ0 は無次元の比例係数 です.

div D = ρ ------------------------------------ (MKS-1) dir B = 0 ------------------------------------- (MKS-2) rot E = -∂B/∂t ------------------------------- (MKS-3) rot H = j + ∂D/∂t -------------------------- (MKS-4) B = `μ0 H + 4`π k M -------------------------- (MKS-5) D = `ε0 E + P --------------------------------- (MKS-6)

dF = ρ E + I dl x 4π k H --------------------- (MKS-7) `μ0 dH = `μ0 dI × r/(4`π!abs(r)^3) # dH, dI, r は vector 但し `μ0 = 4`π k, `ε0 = 1/(4`π c^2), k = 1e-7

注意:まだ `μ0 は無次元であり `ε0 は 「1/速度の自乗」の単位次元を持つ比例係数です. MKSA 単位系直前の電磁単位系で成り立つ Maxwell 方程式

●● `μ0 に単位次元を与える 先の「電磁誘導により磁場 H の時間変化が電圧を発生させるとき B = `μ 0 H = 4`π k H と `μ0=4`π k 倍だけ大きくした磁場を使う」ことは物理 法則として不自然です.でも Practical Unit System に妥協して電流定義に k=1e-7 のマジック・ナンバーを入れたための入り込んできた不自然さだか らしょうがありません.k を 1 以外の値にすれば磁場の世界と電場の世界を 結びつける方程式に k が入り込むことを避けられません.

MKSA 単位系の作成者達は,ここでウルトラ C を考え出します.B = `μ0 H で `μ0 に単位次元を与えて B と H を別の物理量にしてしまう方法です. 下の事情を考えれば B と H を別の単位次元にしてしまうことに同情もでき ます.gauss と oersted の代わりに weber/`meter^2 と `ampere `meter^-1 を使っても良いとするのも分ります.

・ 変てこな k が入ったままでは普遍的に使ってもらう単位系にはならない ・ 電気分極で出てくる電束 D は従来から使われており E とは c^2 だけ異なる単位次元を持っている. ・ 電流起因の磁場には oersted の単位を使い,磁石起因の磁場には gauss を使う習慣があった

でも,物理法則の記述で同一単位次元であるか否かは大きな意味を持ちます. 本来は B と H は同じ単位次元を与えるべきものです.物質が介在しなけれ ば B と H は同じ物理量です.実際に emu 単位系では同じ物理量でした.そ れが人間の都合で別の単位次元を与えてしまうなんてとんでもない話です. 無用な混乱の元になります.B と H を同じ単位次元とする単位系だったら E/B, E/H 論争など起こらなかったはずです.

B と H を別の単位次元にしたことは,基本単位から組立単位を導いていく連 鎖を分り難くする弊害も発生します.下の組立単位の導出順序を再確認くだ さい.

磁場側 ┌→ 電流基本単位の定義 ──────────→ 磁場 H:ampere `meter^-1
│└→ 電荷組立単位:`coulom=`ampere `sec の組立単位の導出 │└→ q/r^2:Coulomb の法則↑
Lorentz 力 ─┤ ↑emu 単位系では c^2│emu 単位系では 1
│ ↓MKSA 単位系では `ε0│MKSA 単位系では `μ0 │┌→ 電場組立単位:`volt/meter↓

電場側 └→ 電圧基本単位の定義 ──────────→ 磁束 B の組立単位の導出

MKSA 組立単位の導出順序

上の組立単位の道筋で,電場側の電圧 `volt が `ampere と同じ基本単位で あることと B が電場側の組立単位であることを確認ください.rot E = - ∂ B/∂t と無次元の -1 で B と E(`volt/`meter) の微分が等号で結ばれてい るからです.そして「電圧基本単位からの組み立て単位の電場」と「電流基 本単位からの組み立て単位:`coulomb と Coulomb の法則:q/r^2 から作られ る」電場との比として `ε0 が定まること,同様に B と H の比として `μ 0 が定まることに注目ください.これが `ε0 `μ0 の単位次元も定めます.

●● `ε0 と `μ0 の単位次元を導く ● 辻褄合わせによる `μ0 の単位次元の導き方 μ0 の単位次元を,二本の直線電流の間に働く力の公式 f `newton/`meter= `μ0 I^2/r から `[μ0] = `newton ampere^-2 と導く方が 多くいます.でも,このように陰な `μ0 の単位次元の導き方は辻褄合わせ です.陽に導くべきです.物理的意味が不明確なままです.

`μ0 は透磁率です.`newton ampere^-2 == `meter `kg `sec^-2 `ampere^-2
の物理的意味が説明つきません.
・ 組み立て単位は基本単位から順次導いていくことで理解できるものです.
B = `μ0 H で透磁率 `μ0 を定義するのならば,先に B と H の単位次 元を組み立てて行かねばなりません.

物理的意味が不明確なまま,望ましい結果の側から陰に導いた [`μ0 ] == `meter `kg `sec^-2 `ampere^-2 で済ましているのでは,透磁率の単位次元 を物理的に理解したとは言えません.常に単位系の表を持ち歩いて,それで 参照しながらでないと物理式の正しさが確認できない段階のままです.物理 式で単位次元の誤りが入り込んでいないかをコンピュータのソフトに頼って 判断してもらう段階です.

● 基本単位からの連鎖による `μ0 の単位次元の陽な導き方 ここでは `μ0 の単位次元を陽に導きます.基本単位からの始まる道を辿っ て `μ0 の単位次元を導きます.B と H の組立単位を基本単位 `volt, `ampere から導き,B = `μ0 H の元の定義から `μ0 の単位次元 [B/H] を 導きます.

MKSA 単位系では,下のような磁束の時間変化と発生電圧の間に余分な比例係 数 k がでなうように磁束の組み立て単位 `weber を新た導入しました.

rot E = -∂B/∂t<BR>
↑↓

発生電圧:`volt = ∫E dl = ∂(∫Bds)/∂t = dΦ/dt

weber は電場側の組み立て単位であり `volt `sec の単位次元を持ちます.

H は磁場側の物理量です.dH = dI/(4`π r^2) = Idl/(4`π r^2)です.です から [H] = `ampre `meter^-1 です.B と H の単位次元が導ければ `μ0 の 単位次元は陽に定まります.

B = `μ0 H ですから [`μ0] = [B/H] = `weber `meter^-2/(`amper `meter^-1) です.物理的意味は [磁束密度/磁場]です.コイルの組立単位 [henry] = `weber/`ampere より [`μ0] = henry/`meter とあらわすことも あります.

`weber は磁荷の単位次元 上で磁束の物量,組立単位 `weber = `volt `sec を導きましたが,これは下 のような関係から磁荷の単位とも見なせます.

div B = ρm
↑↓
B = Qm/(4`π r^2)
↑↓

H = Qm/(4`π `μ0 r^2)

そして SI 単位系は磁石の分野でも磁束密度を `weber/`meter で表すうによ うに要求します.法律でも gauss/oersted の使用は禁止されました.

でも元々磁石関連の分野は,合理的な emu 単位系で表記してきました.真空 の透磁率は 1 であり,B と H は同じ物理量:単位次元でした.磁石起因の 磁場を gauss で表し,電流起因の磁場を oersted で表していただけでした.

そこに Practical Unit System での辻褄合わせで導入された weber の単位 を使えといっても使えるわけがありません.磁束密度と磁場を異なる単位次 元で扱えなどという不合理な要求が呑めるはずありません.MKSA 単位系が定 まってから 60 年,エンジニアが二世代変わっても gauss/oersted の単位系 が使われるのは,技術屋として良く解ります.皆様は如何でしょうか.

● 基本単位からの連鎖による `ε0 の単位次元の陽な導き方 ε0 の陽な単位次元の導出は下のように簡単です.物理的意味も下の式で解 ります.

div D = ρ
↑↓
`ε0 div E = ρ
↑↓

E = Q/(4`π `ε0 r^2) ∴ [`ε0] = `coulomb/(`meter^2 [E])

= `coulomb/(`meter^2 `volt/`meter) = `coulomb/(`meter `volt) = `farad/`meter = (`coulomb/`volt)/`meter

Re: 解りにくい MKSA 単位系となった経緯

小林@那須 さんのレス (2007/05/25(Fri) 16:24)

◆◆ 最後に ◆◆ 以上のように,電圧も電流と同様な基本単位とすることで,電場側の組立単 位,磁場側の組立単位,両者の間に入り込んでくる組立単位の物理量の道筋 が,力学量でのときのように見えてきます.その導き方は常に陽です.常に 単純な線形関係で導かれます.0.5べき乗は最初の電流基本単位の absolute な導出のときに出てくるだけです.

MKSA 単位系は,合理的な emu 単位系に Practical Unit System からの捻り を咥えた単位系です.emu 単位系の理解から始めたほうが,容易に MKSA 単 位系全体を見渡せます.`volt も電流と同様な基本単位であることが明確に なります.

このような意味で MKSA 単位系は MKSA `volt 単位系です.MKSA 単位系の言 葉に引っ張られて `meter `kg `sec `ampere の単位次元で表しても,その物 理的意味は明確になりません.それは `meter `kg `sec `newton^0.5 で表し ているにすぎません.emu 単位系の `cm `gram `sec で表したときは大差あ りません.それでは電磁量を理解・体得することは無理です.`meter `kg `sec `ampere `volt 単位系と考えることで,電磁量全体を基本単位から組立 単位の道筋を,隅々まで巡りまわれる明確なイメージとして掴めるようにな ります.