現代物理学はまだまだ謎が多い気がします. そこでたわいもない疑問なんですが, 量子力学は既に完成された分野ですか? それとも構築中の分野ですか? どう思いますか?
じゅんぺさん,初めまして.
答え難い問題かと思いますので,一つの意見を書いてみます.
>現代物理学はまだまだ謎が多い気がします.
ぜひとも,謎と思われる分野に挑戦してみて下さい.
>量子力学は既に完成された分野ですか? >それとも構築中の分野ですか? >どう思いますか?
主として,物性物理(分子,結晶)や原子核物理(原子,原子核)のなかで,多数の検証を経ており,枠組みとしても,各論としても完成したといってもよいと思います.
最近では,量子エレクトロニクスの分野において,多数の分野での応用研究が進んでいますね.量子コンピュータなどは,その典型例かもしれません.その意味では,また新たな現象の発見から,別の発展の可能性もあるかも知れませんね.
他方,量子力学の直系とも言える素粒子物理学では,実験できるエネルギの上昇とともに多彩な素粒子の発見が続きましたが,近年では,加速器の製作費,製造空間サイズと言った状況によって,停滞を余儀なくされています.しかし,その逆手をとるような,ブレイク・スルーがどこかで進行しているのかも知りません.
さらに,量子力学から発展して,重力場の量子論,一般相対論と量子力学との融合,など,大きな問題がまた開かれた問題として残されているのかも知れません.この手の分野は,他の方の解説をお持ち下さい.
たとえば,半導体部品などは量子力学に基づいて作られ,現実に機能しています. これを考えると量子力学は一応,机上の空論ではなく,現実に応用可能な学問であるといえます.
またホーキングさんが自著の中で,量子論のことを「きわめて成功した理論」というふうに表現しているのを見た事があります.文脈的に,量子論の方程式を用いればあらゆる現象を分析する事が可能になる・・・という感じだったと思います. 理論体系というか,数学的な完成度が高い,という感じなのでしょうか.
しかし,そうは言っても「すべてのものは粒子であり波であり,人が見れば粒子,見なかったら波になっている」という破天荒な発想には,かつてアインシュタインを初めとした名だたる科学者達が猛反発をし,現代でもこの考え方にアレルギー反応を示す人は沢山いるようです(自分もその一人).
前述のとおり数学的,実用的な面での完成度は高いので,学界では「変な理論だけれども,応用可能なんだからいいじゃないか」と,深く踏み込まない姿勢をとっている人が大多数(であるように門外漢には見える)ですが,個人的にはこのヘンテコな理論に真っ向から挑み「謎」を解き明かす科学者が現れてくれたら大変面白いのにと思っております.
この「謎」は,いかにも解き明かすことは「原理的に不可能」っぽい匂いを漂わせていますが,さて・・・
量子力学は,ある範囲内では,矛盾やほころびのない完成した理論体系になっています.もちろん,一般相対論との矛盾のない結合など課題はたくさんありますが,実験結果とよく一致し十分広い適用範囲をもつ体系です.
> 「すべてのものは粒子であり波であり,人が見れば粒子,見なかったら波になっている」という破天荒な発想には,かつてアインシュタインを初めとした名だたる科学者達が猛反発をし
アインシュタインが受け入れることができなかったのは確率解釈であり,量子性を否定してはいません. # そもそも,ノーベル賞の対象になったアインシュタインの研究は光電効果(光の粒子性)ですし,アインシュタインは量子力学に多大な貢献をしています. # 上の文章にはほかにもつっこみどころはありますが,やめておきます.
> 現代でもこの考え方にアレルギー反応を示す人は沢山いるようです
初学者ならともかく,研究者で量子力学にアレルギー反応を示す人はいません.何か論文のネタになるようなつっこみどころはないかとあらを探している人は大勢いますが.
アレルギー反応を示す「人」が「一般の人」を指すのなら,それはそんなものでしょう.量子力学どころかガリレイの重力理論(落下は等加速度)を受け入れられない人が多いですから.
# 先日テレビで重いドミノと軽いドミノとでどちらが速く倒れるかというクイズが出てましたが,たいていの人は「重いものが速く倒れる」と,少なくとも感覚では,思っているようでした.(答えは「同時」です.) 高校で物理をならったはずの大学一年生へのアンケートでも,重力に対するまちがった感覚をもっているという結果だったそうです(出典は忘れました).
理論が感覚的に理解できないことと,理論の正否とには何の関係もありません.
どのような理論でも受け入れられるのには時間がかかります.また,どのような成熟した理論にも未解決の問題はあります.ですが,これは理論の価値とは無関係です.
確かに,量子力学には「観測の解釈」という謎の部分があります.しかし,これが量子力学の瑕疵になると研究者はだれも思っていません.なぜなら,量子力学の理論的結果と実験結果との間に矛盾は未だに見つかっていないからです(見つかればノーベル賞ものですから一生懸命探している研究者は多いのに).解釈に不可解な部分があっても,自然を正しく記述しているのなら,否定する理由はありません. (けっしてトランジスタの成功だけで信じているわけではありません.)
もちろん,よりわかりやすい解釈を追求するのは当然です.メゾスケールの理論や量子カオスあるいは量子コンピュータの研究をしている人も多くいるので,将来,より自然な解釈ができるようになるかもしれませんし,あるいは量子重力の研究からあっと驚く新展開があるかもしれません. どちらにしても,楽しみですね.